2013 Fiscal Year Research-status Report
中世歌学の享受から見た心敬の文学作品の創造と新撰菟玖波文学圏への影響に関する研究
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24520222
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
伊藤 伸江 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (30259311)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 勲 聖心女子大学, 文学部, 名誉教授 (90007948)
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Keywords | 連歌 / 和歌 / 心敬 / 正徹 / 芝草句内岩橋 / 兼載 / 細川氏 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度にひきつづき、心敬が宗匠として参加した早大図書館蔵『「撫子の」百韻』の注釈を行ない、完成させた。『「撫子の」百韻』は、管領細川勝元とその家臣団による百韻であり、在京時の心敬の交友圏中、彼が最も密接に関係した有力武士との間の百韻を注釈、分析することで、武士の句作の特質と、それを指導し百韻の流れを作って行く心敬の手法を明らかにしえた。この百韻の訳注は、平成26年度に笠間書院より刊行予定の『心敬連歌 訳注と研究』に掲載し成果を発表する。 さらに、心敬には和歌と連歌の自作をおさめた全八冊からなる『芝草』があり、その自注が存している。今年度は、その自注のうち連歌の発句及び付句の自注である本能寺本『芝草句内岩橋上』を選び、訳注を開始した。心敬の自句、自歌解説は、彼の創作を理解する上で最も重要な指標であるが、これまでのところ、本能寺本と大田氏蔵二本の翻刻が終戦直後に出され、本能寺本の影印が『連歌貴重文献集成第五集』におさめられたのみで、内容面の研究は未だ進んでいなかった。今回、新たに翻刻と注釈にとりくみはじめたことで、研究に新しい段階をひらきえたこととなる。今後、『芝草句内岩橋上』『芝草句内岩橋下』の訳注を完成させることで、心敬の連歌と和歌の創作の源泉を明らかにすることができ、正徹から心敬へと流れ込む冷泉派和歌の実体もより詳細に把握できうる。加えて、心敬から流れ出す連歌の、宗祇のみならず兼載への影響を論じうることとなり、新撰菟玖波文学圏への影響の新たな分析をなしうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、心敬の作品(百韻・和歌・連歌・自注など)の読解によって、心敬の文学的・思想的ネットワークを明らかにするとともに、新撰菟玖波集の編者である宗祇や兼載が、心敬の連歌にいかに影響を受けていたかを開明することである。本年度の研究では、昨年度からはじめていた『「撫子の」百韻』の注釈を完成させ、あらたに『芝草句内岩橋上』の自注注釈を始めた。これにより、心敬と有力武士細川氏との関係、具体的な百韻張行方法が明らかになり、さらには自注注釈により、心敬の句作方法とそれを伝えた兼載への影響関係に関する論究をなす準備が整いつつある。こうしたことから、当初の計画以上に進展しているという事ができる。
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Strategy for Future Research Activity |
心敬の文学活動のうち、関東下向以後の活動である『芝草句内岩橋上』『芝草句内岩橋下』の訳注を鋭意進める。注釈の過程で見える問題点を詳細に検討することにより、連歌作者心敬が、宗祇や、とりわけ兼載に及ぼした影響力をはかり、その文学の広がりを把握することができる。また、連歌のみならず、歌人としては正徹の強い影響下にあった心敬の和歌自注作品にも目を向け、連歌作品や連歌論の業績の陰に隠れて注目されてこなかった、心敬の歌学の教養についても論をなす。すでに今年度、心敬が、慈円の和歌を正徹の影響の下に学び、取り入れ、自句の表現に使用していることを明らかにしえた。このように、和歌、連歌、いずれも駆使し、融合させて作品を生み出していた心敬の新しい全体像の把握をめざしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
科研費研究の成果をまとめた研究書『心敬連歌 訳注と研究』刊行をすすめており、その費用分を次年度使用額にした。 『心敬連歌 訳注と研究』(笠間書院)を刊行し、その後『芝草句内岩橋上』訳注の完成など研究目標に従い、各種物品費、旅費などを使用し研究をすすめる。
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