2012 Fiscal Year Research-status Report
権門都市宇治の歴史的展開を視点とした院政期文学再評価のための基礎的研究
Project/Area Number |
24520227
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
西本 寮子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (70198521)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 院政期文学 / 中世王朝物語 |
Research Abstract |
初年度である24年度は、藤原頼通以後の摂関家が政治的基盤として形成した権門都市宇治の実際の状況が、中世王朝物語をはじめとする院政期以降に成立した文学作品にどのように反映しているかを確認するため、基礎的資料・情報の収集、整理を中心に行った。具体的には、宇治市史に記載される事項を基礎資料として院政期までの出来事を整理し、その根拠となる史料・記事を収集整理することから始めた。また、和歌から宇治という地のイメージ、および摂関家の活動の拠点としての宇治の変遷を探るため、勅撰集をはじめとする歌集の類に収載される和歌から地名の記載状況に着目して整理する作業に着手した。さらに中世王朝物語についても、地名表記に注目して再読し、物語の舞台としてえらばれた「地」の整理に着手した。これらの作業を進める中で、とりわけ中世王朝物語においては、都のみならず宇治周辺、いずれを舞台として物語が展開しているのかについてあまり注目されてこなかったことに気づいた。今後再読作業を進める中で整理する必要がある。 以上のような基本事項、情報の整理と並行して、考古学的研究を含む近時の日本史研究の進展状況を踏まえた研究を展開するための基礎資料として、文学研究および周辺、関連領域の研究について、新刊図書を中心に資料の収集に努めた。また、宇治市歴史資料館や京都府総合資料館などに出向き、発掘史料に関わる研究の進展の状況や、既刊の報告書による基本情報の収集に努めた。さらに、公的機関にはほとんど所蔵されていない雑誌掲載の論考についても収集した。情報収集、資料収集に際しては、関連領域の研究者との情報交換を進めた。以上を踏まえ、「『とりかへばや』の吉野―『源氏物語』松風・薄雲巻との関係(『県立広島大学人間文化学部紀要』8号、2013年2月)に、検討状況の一部を盛り込んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
勤務先で部局長を務めているなかでの採択であった。申請時には、採択された場合であっても研究の遂行が可能な範囲での計画とするよう留意していたが、予想以上の量の学内業務が年度後半に集中した。作業の遅れの最も大きな原因である。中世王朝物語の整理についても、当初の予定より若干遅れた。研究遂行が遅れがちになったことを補うため、図書整備、資料収集については集中的に進めた。結果として、当初申請額より多くの図書資料を購入し、研究環境を整えることができたのは大きな成果である。 基礎資料の整理が遅れがちになったもう一つの理由は、『新編国歌大観』の入手が遅れたことである。効率よく作業を進めるため、当初から購入を予定していた『新編国歌大観』CD-ROM版について、DVD版への切り替え時期と重なったことから発売開始が遅れた。そのため、作業着手が当初計画より遅れてしまった。このことに加え、学内業務を優先せざるを得ない状況であったことから、国文学研究資料館等、日曜日に利用できない機関に直接出向いて資料を収集することができなかったのも、当初予定より作業が遅れていることの原因のひとつである。効率的に情報収集を進めるため、ウェブ公開資料等の併用を検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
作業が遅れている資料収集を進める。特に、国文学研究資料館等に出向いての資料・情報の収集については継続して実施する。また、歴史学研究者との情報交換を積極的に進め、歴史学における院政期の研究の現状の正確な把握に努め、国文学における院政期文学研究の成果に照らして、研究の焦点化に努める。それと並行して、当初計画に記している以下の作業を進める。 (1)基礎資料収集対象を和歌、中世王朝物語から漢詩文、記録類に広げ、収集・整理をすすめる。 (2)京都府立総合資料館、国文学研究資料館等での資料・情報収集を継続して行うとともに、近接領域の研究者からの助言を得て実地踏査を行いつつ、文献資料との整合性に注目して比較検討を行い、文学作品における虚構化の実態についての考察をすすめる。 (3)祐子内親王家サロンの文化活動に注目した考察を進める。『狭衣物語』『夜の寝覚』の地名表記や藤原頼通の文化活動についての研究を進めている研究者との情報交換を行うとともに、近年の研究成果を踏まえ、頼通文化圏の広がりの中で祐子内親王サロンの独自性と同時代に活動した文人との交流についての資料の収集をすすめる。 (4)以上の作業により得られた知見については、可能な限り速やかに論文化し公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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