2014 Fiscal Year Research-status Report
権門都市宇治の歴史的展開を視点とした院政期文学再評価のための基礎的研究
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24520227
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
西本 寮子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (70198521)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中世王朝物語 / 摂関家 / 藤原頼通 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇治という地は古くから交通の要衝として賑わいを見せ、平安京を支える経済的拠点として発展を遂げていた。春日の神を氏神とする藤原氏にとっては、京都と奈良の往復の際の中間点にあたり、なじみのある地であった。その宇治に藤原道長が別荘地を入手して遊興の際の拠点としたころから、その様相が変わっていったと考えられる。木幡に浄妙寺が建立され、行き来が頻繁になると、宇治も信仰の地としての姿を見せるようになり、頼通が平等院を作ると浄土に通じるイメージをもつようになった。その頼通の周辺で、その庇護のもとに展開した文芸活動は頼通的世界とも称されることがあるように、それ以前とは一線を画する展開をみせた。人々の移動に伴って、文芸の世界で継承されてきたイメージが変化してきたのである。そして、その後の摂関家のさらなる進出にともなって、12世紀の宇治は軍事的拠点にもなった。このような変化を背景として、宇治という地あるいは地名が文芸作品に現れるとき、そのイメージやその地で展開する物語が持つ意味にも変化が見られるのではないか。本研究の問題意識のひとつはそこにあった。『源氏物語』によって「山里」として印象づけられた宇治と現実の宇治のイメージの差はどう捉えられたのか。時代の進行による宇治の変遷が文芸作品にどのように影響を与えたのかあるいは与えなかったのかを意識しつつ考察を深めた。 なお、中古文学会平成26年度春季大会で行われたミニシンポジウム(「中古文学会で、中世王朝物語を考える」)において、パネラーとして報告する機会を得たことから、研究成果の一部を報告に盛り込んだ。また、『中古文学』94号に「垣根を越えるためにー中世王朝物語研究の課題ー」としてまとめた。文学研究に歴史研究をはじめとする近接諸学の研究成果を反映させるなど、時代を横断的に見る視点の重要性についての言及である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成25・26年度の二年間は学内業務を優先せざるを得ない状況が続いた。特に、26年度については文部科学省の事業(大学教育再生加速プログラム)に採択され、代表者としての業務に忙殺された。関連書籍及び資料の収集に努め、研究会参加等を通じて情報収集と情報交換を継続して行ったが、作業はなかなか進まず、1年間の延長を願い出ることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成27年度は、これまでに収集した情報の再整理およびこれまでに得られた知見をもとに、成果をまとめることに力を注ぐ。特に、宇治に注目した道長、道長が築いた基盤を独自に展開させた頼通とその周辺の文化活動との関わりに着目して、摂関家をめぐる環境の変化が文芸とりわけ物語文学にどのような影響を及ぼすことになったのかという点に焦点を当てて考察を深めるよう努める。おそらく頼通が生きた時代が鍵になると考えられることから、考察にあたっては、『源氏物語』が古典としての地位を築く以前に『源氏物語』的世界がどのように受容されていったのかを視野に入れ、現実世界における摂関家のあり方の変化と、『源氏物語』的世界が理想として受け入れられていく過程で認められる多様な表現との関係に着目する。考察の結果は、現在執筆準備を進めている論文に反映させるよう努める。 また、これまでに収集した情報については引き続き整理を続けることとし、研究会等での報告を通じて研究者の評価を求めるとともに、今後公表する論文などに反映させ、四年間の研究の成果の公表をこころがける。
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Causes of Carryover |
平成25年度から学長補佐を務め、学内業務を優先せざるを得ない状況であった。特に26年度は文部科学省補助事業「大学教育再生加速プログラム」に応募、採択され、当該事業実施責任者としての業務に忙殺され、十分な作業時間が取れなかった。情報収集と情報交換、また最新の研究成果に係る資料の収集のため、資料購入に充てた物品費と旅費についてはほぼ当初の予定どおりの使用ができた。しかしながら、作業が遅れぎみであったこともあり、収集を続けてきた基礎作業データの蓄積はあるものの、依然情報が不足している状況であることから、最終年度の実績公表方法として当初予定していた報告書をまとめるには至らなかった。これにより、予定額の半分近くを使用することが叶わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究期間を1年延長したことにより、平成27年度が最終年度となる。この状況で報告書をまとめるよりも、これまでに蓄積してきたデータと最新の研究成果に基づく情報、そして得られた知見をもとに、論文としてまとめる方がよいと判断した。今年度中にまとめ、成果を公表したい。特に、時代の進行に伴う摂関系を取り巻く環境の変化と、12世紀の法華経信仰の深化との関わり、『源氏物語』の享受の様相の展開に着目して、考察するために必要な資料および追加情報を収集するための調査・学会参加等に係る旅費及び資料の収集に係る経費など、成果公表を最優先として使用することとする。
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