2012 Fiscal Year Research-status Report
『琉球国由来記』『琉球国旧記』を中心とする琉球王府編纂事業の基礎的研究
Project/Area Number |
24520236
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
島村 幸一 立正大学, 文学部, 教授 (70449312)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 琉球王府 / 編纂事業 / 『琉球国由来記』 / 家譜 |
Research Abstract |
本年度は、「琉球の「歴史」記述-夏氏(内嶺家)・毛氏(豊見城家)の家譜記事と正史記述を中心に-」(『立正大学大学院文学研究科紀要』第29号、平成25年3月刊、pp.47-77)を発表し、第二尚氏王統の有力士族の家譜記事が二番目の正史蔡鐸本『中山世譜』、三番目の正史蔡温本『中山世譜』、四番目の正史『球陽』にどのように記述されていくかを考察した。 夏氏の始祖は、琉球史上有名な阿摩和利(アマワリ)の乱にかかわって「逆臣阿摩和利」を「討伐」した氏、毛氏の始祖は、阿摩和利に滅ぼされた「忠臣護佐丸」である。その二氏の家譜記述が正史にどのように具体的に入っていったか追いながら、琉球王府の正史記述形成の一端を考察した。17世紀後半以降次第に形成されると考えられる家譜記述は、その始祖達の働きが王に対していかに忠実であったかを記述することが重要なことであった。正史は資料に乏しい前代の氏族伝承的な記述を、一定の基準に従って受け入れていったと推定される。その転換点が蔡温本の『中山世譜』であり、氏族の伝承的記述をさらに大きく受け入れて記述したのが『球陽』であったと考えられる。『球陽』は外巻として漢文説話集『遺老説伝』を持つが、蔡温本に「歴史」と「遺老伝」との区別を分けて登場した氏族伝承を、大きく正史の叙述に組み入れて記した。 本年度は外に、第一尚氏の末裔達の氏族伝承ともいえる『佐銘川大主由来記』の解読にも手を付けた。これは有力氏族とは、異なる家譜記事がどのようなものであるかをみるためで、家譜資料を多角的に分析する視点を確保するためである。また、沖縄県石垣市及び竹富町を訪れ、『琉球国由来記』『琉球国旧記』に記される遺跡、御嶽の調査をし、合わせて石垣市図書館、竹富町史編集室を訪れ資料の収集をはかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は、提出した「研究目的(概要)」の3「士族の氏族伝承ともいうべき家譜の記事」が正史の記述にどのように入っていったかをみたのであるが、それが具体的に『琉球国由来記』や『琉球国旧記』にどう記述されているかはみることができなかった。次年度以降の課題としたい。ただし、家譜記事が琉球王府の正史にどのように記述されていったかという問題は、もうひとつの有力な王府の編纂書であった『琉球国由来記』や『琉球国旧記』の編纂、及び記述と密接にかかわる問題であり、むしろ正史記述の問題を視野に入れて取り組む必要があると考えられる。特に、『球陽』は正史の中でも伝承を多く取り入れた書であり、やはり伝承を取り入れて編纂した『琉球国由来記』や『琉球国旧記』との重なりをみる上で重要だと考える。その点で、本年度の研究は大いに意義があったといえる。すなわち、研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き家譜の収集を図り正史記述と、課題とする『琉球国由来記』や『琉球国旧記』の記述の具体的なあり方を検討していく。本年度の途中からはじめた『佐銘川大主由来記』は前述の通り第一尚氏の末裔の氏にかかわる由来記であり、第二尚氏の有力な家臣団にならなかった氏の伝承であるといえる。この氏族伝承が、どのように形成されているかを検討し、さらに夏氏や毛氏等の有力な氏の氏族伝承との比較を行っていく。そのことによって、別の角度から有力氏族の伝承が正史や王府の地誌(『琉球国由来記』や『琉球国旧記』)に入り込んでいく問題を明らかにしたい。また、研究目的(概要)で記した2に関わる地方から提出された由来記と旧記が『琉球国由来記』や『琉球国旧記』にどのように利用されていったかを、宮古島の資料(『御嶽由来記』『雍正旧記』『宮古島記事仕次』『宮古島記事』)を検討し具体的に考察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も沖縄県等に赴き家譜調査や王府編纂事業にかかわる資料調査、及び『琉球国由来記』や『琉球国旧記』に記載された遺跡、御嶽等の実地調査を進めていく。合わせて、研究課題にかかわる図書や資料を収集して研究課題に取り組んでいく。
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Research Products
(2 results)