2014 Fiscal Year Research-status Report
『琉球国由来記』『琉球国旧記』を中心とする琉球王府編纂事業の基礎的研究
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24520236
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
島村 幸一 立正大学, 文学部, 教授 (70449312)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 『琉球国由来記』 / 『琉球国旧記』 / 『球陽』 / 『遺老説伝』 / 『中山世鑑』 / 『中山世譜』 / 鄭秉哲 / 蔡温 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①「『琉球神道記』にかかわる「琉球言説」」(『立教大学日本学研究所年報』第12号、立教大学日本学研究所、2014年7月)、②「琉球から見た『椿説弓張月』」 (『沖縄文化研究』法政大学沖縄文化研究所、第42号、2015年3月)、③「『琉球国旧記』の編纂ー『琉球国由来記』から『琉球国旧記』へー」(『立正大学大学院紀要』第31号、立正大学大学院文学研究科、2015年3月)を発表した。 ①は、『琉球神道記』の琉球への影響も見ながら、特に近世日本の国学者等に与えた影響を探った論である。②は『中山世鑑』や『中山伝信録』にも記載されて、広く近世日本にも広がっていたとみられる為朝の琉球渡来伝承を文芸化した滝沢馬琴の『椿説弓張月』の主題を、琉球を視点において分析した論である。①と②はいずれも、正史『中山世鑑』に深く影響し、その後の琉球王府の編纂書にも影響した近世期の琉球認識にかかわる言説を論じた論である。 ③は、本研究課題の中心をなす論となるもので、1700年前後から50年間にわたって集中的に行われた琉球王府の編纂事業を、『琉球国由来記』から『琉球国旧記』の編纂の変遷をみることによって明らかにした論である。すなわち、琉球王府の編纂事業は、和漢混淆文の編纂書から漢文の編纂書への変遷であり、その結節にあるものが『琉球国旧記』である。つまりは、地誌として編纂された『琉球国旧記』は、『琉球国由来記』よりもさらに「遺老伝」(伝承)を叙述した書であり、「遺老伝」を大きく内包した後の正史『球陽』『遺老説伝』を生んでいくのである。論文の付表1~10で示した『琉球国旧記』と『琉球国由来記』の対応、および370箇所にわたる『琉球国旧記』の『球陽』『遺老説伝』への引用箇所の確認作業は、本学の短期海外研修を利用してハワイ大学ハミルトン図書館および阪巻ホーレー文庫を活用した得た成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記で示した平成26年度の成果である③の論文は、本研究課題の中心をなす論だと考えられる。すなわち、1700年前後から50年間の琉球王府の編纂事業は、和漢混淆文による正史『中山世鑑』から漢文による正史、蔡鐸本『中山世譜』、蔡温本『中山世譜』、『球陽』とその外巻『遺老説伝』への編纂であり、和漢混淆文による地誌『琉球国由来記』から漢文の地誌『琉球国旧記』の編纂である。それは基本的に1609年の島津侵攻から百年を経た琉球国が、徳川幕藩体制と島津藩からの相対的な自立をはかるために中国の冊封国として主体的に生きようとした帰結として、冊封国としての文書の体裁を整えようとした結果だと考えられる。それは、単に和漢混淆文を漢訳することに留まらず、蔡温本『中山世譜』の附巻の編纂に当たった鄭秉哲が琉球と中国関連の叙述を正巻に記し、琉球と薩摩・日本関連の叙述を附巻にする二本立ての記述にしたことでも知れる。また、それと同時に蔡温本『中山世譜』は、「史実」と「遺老伝」(伝承)とを腑分けし、それを組み合わせて「歴史」を叙述し、『琉球国旧記』は「風水」等の知識を入れて『琉球国由来記』の叙述を再編纂して新たな地誌を記すことでもあった。蔡温本『中山世譜』の本格的な附巻を編纂した人物と『琉球国旧記』を編纂した人物は、中国からの渡来人である唐栄出身の鄭秉哲であり、さらに『球陽』や『遺老説伝』編纂の中心人物も鄭秉哲である。この人物が、1700年前後からはじまる琉球王府編纂事業の中核を担った人物であり、『琉球国旧記』が結節になって後の「遺老伝」を大きく含む正史『球陽』とその外巻である漢文説話集『遺老説伝』を生み出すのに、大きな役割を果たすのである。 ③論文は、琉球王府の編纂事業の基本的な見通しを展望した論文であり、本年度の成果にこれがあったことは、研究課題を大きく進展させることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
③論文の課題として、『琉球国由来記』と『琉球国旧記』の間に『故事集』といわれる文書があることが確認されており、『琉球国旧記』も突然成立した書ではないことが分かる。さらに、『故事集』は様々なかたちで『琉球国由来記』と『琉球国旧記』の間にある文書であると考えられる。すなわち、項目によっては『故事集』の叙述が『琉球国由来記』に近い場合もあり、また『琉球国旧記』に近い場合もあり、なかには『故事集』に確認されず、『琉球国旧記』に登場する項目も想定される。また、項目によっては『故事集』の叙述が『琉球国旧記』に記されず、『球陽』や『遺老説伝』に入っている場合もみられる。琉球王府の編纂事業を考える際に、この『故事集』の解明が次の課題である。本年、および最終年は『故事集』の解明が課題となる。また、それと並行して引き続き、沖縄県や鹿児島県への資料収集をはかり、王府編纂事業の資料の裾野を探っていきたい。 なお、平成27年度中に③の論文や前年度の成果として記した「『宮古島旧記』(雍正五年本)に記されたアヤグー「地方旧記」の歌謡世界」、「『佐銘川大主由来記』論ー第一尚氏を戴く氏の物語」等を含む論集、仮題『琉球文学「歴史」叙述論』を刊行する予定である。
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Causes of Carryover |
26年度は、海外短期研修を含む一年間の研修をした年度であり、前年度までに残していた未執行の予算を含め順調に執行することができた。ただ、海外短期研修後に計画した二度程の沖縄への資料収集出張行ったが、春節等にぶつかり、予定した宿泊所の確保が出来なかった。次年度の継続した調査等も考え、上記の予算を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も引き続き、沖縄県や鹿児島県への資料調査、資料収集のための出張に行いながら、研究課題に取り組んでいく予定である。
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Research Products
(4 results)