2012 Fiscal Year Research-status Report
国際的基盤形成を視野に入れた日本近代文学における内務省・GHQ検閲の研究
Project/Area Number |
24520241
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 検閲 / 出版 |
Research Abstract |
内務省の検閲と戦後日本のGHQ/SCAP検閲の相互関連性を研究するにあたって、両者の検閲に関連する資料が不可欠となる。そこで本年度は、内務省検閲については、戦前日本における単行本を中心に、日本国内で資料収集を行なった。具体的には、国立国会図書館や早稲田大学において、マイクロフィルムでの予備調査を実施した。GHQ/SCAP検閲については、アメリカ合衆国・メリーランド大学図書館プランゲ文庫所蔵の占領期刊行の文芸書の調査と検閲文書の資料収集を実施するための準備を行った。先方とのやりとりから、調査対象を絞ることができた。本研究を行ううえで、二つの検閲にかかわる基礎資料は不可欠となる。昨年の冬には、ニューヨークのコロンビア大学でアメリカの研究者たちと研究上の意見交換を行い、今後の研究の指針を得た。 本年度特に大きな成果に結びついたのは、岩波書店の出版物の調査である。大正期創業の有力な出版社である岩波書店は、戦前から戦後にかけてのメディア規制を考えるうえで、恰好の対象となる。とりわけ今年度は、文芸に対して行なわれた異なる検閲の関連を考察することを中心に調査をしたが、芸術や人文科学・社会科学・自然科学などの領域についても、関連する資料を集めた。今後の課題も少なくないが、近々成果の一部を公にできればと考えている。他の研究実績については、一昨年韓国で開催された国際シンポジウムの成果を論文として提出しており、それについても近いうちに公刊される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究申請に際して、「研究の目的」には、以下のように記載した。「本研究は、近代日本文学の表現とメディア検閲とのかかわりを、第二次世界大戦前から戦中にかけて実施されていた内務省の検閲と戦後日本のGHQ/SCAP検閲の相互関連性に焦点を当てながら歴史的に研究することを目的としている。文学にかかわる二つのメディア検閲の新資料を収集・整理し、日本国内外においてこれまで個々に研究が進められてきた内務省とGHQ/SCAPの検閲の関連について検討を加えることで、新たな研究の基盤を形成し、その成果を国際的に共有するべく日本語と英語による発信を目指す」。ここに記した目的については、単年度としてはほぼ達成することができた。ただし、プランゲ文庫の調査は今年は行わず、先方と連絡をとりながら準備を行った。また、研究を進めるうちに、新たな資料に基づく研究を展開する可能性が見えてきたので、当初の予定を一部変更しながら、成果をまとめていくことを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、三年間の研究を通じて、第一に、第二次世界大戦前後の日本文学に対して行なわれた内務省とGHQ/SCAPの検閲資料を収集・整理し、第二にここで得られたデータをもとに、内務省とGHQ/SCAPの検閲の事例をそれぞれ分析しながら、両者の関係の解明を目的とする。また、江戸期の出版や、映画・演劇・美術などの視覚芸術における検閲との関連についての研究成果を参照することで、近代の日本文学に見られる検閲の特色が歴史的に明らかにする。以上の研究を進めるにあたっては、内務省とGHQ/SCAPによる書き換えの指示のある校正刷・出版物・検閲文書を中心にしながら、必要に応じて、直筆原稿や執筆者・編集者の証言についても調査を行なう。その際に、個別的な事例を疎かにすることなく、検閲の一つ一つを丁寧に掘り起こし、丁寧に吟味することに十分に留意する。検閲指針に基づいて検閲が行われていたにせよ、それがいつ・どこで、だれによって、どのメディアを対象に行われたかで、検閲の結果に開きが出てくる。内務省とGHQ/SCAPいずれの検閲の場合も、当局の政策によるものであったにせよ、実際の検閲をめぐる現場では、生身の人間によって人間の表現行為を規制する作業が行われており、検閲の行われた時空間および検閲者・被検閲者の組み合わせが変われば、その結果が多様であったことが理解されてくるからである。 この研究の目的を達成するために、内務省とGHQ/SCAPの検閲にかかわる資料を日本国内外において収集・整理したデータを作成し、それをもとに、個々の事例の分析を開始する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は、前年度に引き続き資料の収集を行う。これと並行して、前年度に収集した資料をもとに、研究成果をまとめるための準備に入る。年度末には、「内務省- GHQ/SCAP検閲データベース」を完成させる予定。具体的な研究計画・方法は、24年度と同様である。そのため、予算についてはすでに購入し使用している設備備品費のノートパソコンを除いて、前年度とほぼ同等の予算が必要となる。したがって、設備備品費では占領期文学とメディア関係の図書、消耗品費・国内旅費・外国旅費・謝金・その他について、前年度と同様の必要から申請を行った。
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