2013 Fiscal Year Research-status Report
古代・中世における梵字悉曇を中心とする〈文字〉観の総合的研究
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24520251
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
小川 豊生 摂南大学, 外国語学部, 教授 (50169190)
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Keywords | 梵字悉曇 / 密教 / 身体 / 観想 / 瑜祇経 |
Research Abstract |
本研究課題の中心は、梵字悉曇を中核とした文字・言語研究を広く文化学の一環に位置づけなおすことにおかれている。前近代における日本文化研究において、異言語・梵字悉曇のはたした役割にはきわめて重大なものがあるが、にもかかわらず、これまで文学・宗教をはじめとする諸文献に現れる梵字悉曇の研究は、一部の国語学・仏教学の世界に閉ざされたまま推移し、広く文化研究の立場から論じられることは殆どなかった。本研究は、梵字悉曇を中世の知の探究の視点から本質的に把握しなおすことを試みるものであるが、平成24年・25年度に実施してきた調査・収集の成果として、本年度はおもに単著の刊行に力点をおいて進めてきた。本報告書作成時点(平成26年5月1日)において、すでに同論集は刊行ずみである(『中世日本の神話・文字・身体』森話社、2014年4月25日刊)。24年度の成果と合わせて、本年度の実績はすべて本刊行によって遂行されたものといえる。とくにその第IV部第一章~第三章は本研究計画のうち重要な梵字悉曇と観想および身体との関連、中世を貫く梵字文化の形成と展開のプロセスの解明について論じたものであるが、いずれも両年度にわたる成果を集積したものである。また第I部第一章~第三章では、中世における文字と身体との密接なかかわりを愛染王法という密教修法に代表させて論究している。ちなみに本書に収録した文字論・身体論は、本科研計画にもとづいて書き下ろされた論攷群を含んでいる。本書を基礎に、さらに26年度(最終年度)の総括的研究に歩を進めたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(理由) 本年度の研究計画のうち、文献資料の収集および直接所蔵文庫・図書館への探訪調査については、やや遅れているといわざるをえない。本年度の重要な目的であった単著書(『中世日本の神話・文字・身体』森話社、2014年4月25日刊、全730頁)の刊行については、所期の目的を達成することができた。本書のうちには、本年度の研究内容が充分に盛り込まれているが、刊行に力点をおいた分、文庫調査、資料収集に充分な時間を割くことができなかった点、反省すべきところである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度においては、既刊行の論集を基礎に、さらに梵字悉曇と古典文学とのかかわりについて、研究を深化させていきたいと考えている。とくに、本年度に十分な調査ができなかった文庫について、資料収集につとめ、そのうえで26年度の当初研究計画に則って、前近代の漢字文化圏における〈文字〉論の総合的分析を試みたい。それによって、和字・和語の問題を広く東アジアの諸言説から相対化して捉え、梵・漢・和三国言語観の形成過程およびその展開プロセスの解明をめざしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究達成のための最重要なねらいは、梵字悉曇にかかわる資料の渉猟におかれているが、今年度は、前年度から続けてきた本研究の成果が多く含まれる単著(論文集)の刊行に多くの時間を割いたため、充分な進展をみなかった。関連文献の収集およびマイクロ資料からの複写に関しては調査・収集をある程度達成することはできたが、多くは最終年度に積み残される結果となった。総括としての論文発表を含め、次年度の有効な使用を期している。 未完遂の資料調査・収集を実施する。とくに高野山大学図書館、叡山文庫、金沢文庫を中心に梵字悉曇関連写本の徹底収集を行う。また、漢字文化圏にたいし、「梵字文化圏」という視座をたてる本研究に関連する諸文献の徹底収集につとめる。最後に成果報告書(資料篇・論考篇)として単著の冊子制作を計画している。
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Research Products
(1 results)