2013 Fiscal Year Research-status Report
「もう一つの精神史――ハーン受容にみる近・現代日本」
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24520254
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
アスキュー 里枝 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 講師 (10599632)
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Keywords | ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 / アイデンティティ / ナショナリズム / 文化喪失 |
Research Abstract |
本研究プロジェクトの目的は、日本におけるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の受容の在り方を分析し、近・現代日本の隠れた精神史を発掘することにある。明治以来、日本の良き理解者として、日本人に愛されてきたハーンは、古き良き日本を象徴する存在であり、彼の受容の在り方を探ることは、日本におけるナショナリズムやアイデンティティの問題を明らかにすることである。ハーン研究者の言説の分析については福間良明の先行研究があるが、本研究では、より総合的・包括的なハーン受容の検証を実現するため、ハーン研究とは直接関係のない知識人の言説やポピュラー・カルチャーの表象をも分析対象としている。 ハーン研究者によるハーン受容の在り方を概観した平成24年度に続き、平成25年度では、明治以来の一般の日本の知識人(古くは岡倉天心、柳田国男から最近では長尾龍一、梅原猛、小堀桂一郎など)におけるハーン受容についての資料を収集し、分析した。具体的には、これらの知識人がハーンについて直接書いた論文やエッセイ、新聞記事などから、ハーンを語ることを直接の目的としていない著作(日本近代思想史など)や、対談などに表れたハーン像を探り、明治以来、近代化の問題に悩む日本の知識人にとって、ハーンとは一体何を意味するのかを分析した。また時代によってハーン受容に傾向があり、そうした変遷についても分析した(例えば戦前は国家神道・靖国神社の擁護者といった「男性的」で政治的なものが多かったのに対し、戦後は軍国主義への反動か、民俗学者としてのハーン、虫の声を楽しむハーンという「女性的」で文化的なものが多い。1990年代になると再び「男性的」ハーン言説が登場するが)。平成25年度の研究は、ほぼ研究計画通りに実行できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハーン研究者の受容に比べて一般知識人(非ハーン研究者)の資料収集は数も多い上、確認作業もタイトルに必ずしもハーンの名前が入っていないなどの理由から、それ程簡単ではない。しかし、ハーン研究者である速川和男がハーンに関する文献リスト(百科事典におけるハーンの記載など、かなり多くを網羅している)を作っていて、ある程度の目途をつけることができた。またそれ以外にも、ハーン言説はしばしば日本近代思想史、日本人論、日本精神史、お雇い外国人、神道などに関する著作に見出すことができ、ある程度まで絞り込みが可能だったので、資料収集は比較的スムーズに行った。本年度はこれらをまとめて分析し、今年度のテーマに関する論文のドラフトも一本出来上がった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究計画はポピュラー・カルチャーにおけるハーン受容であり、娯楽(推理)小説、劇、漫画、博物館などにおけるハーン像を検証する。博物館に関してはフィールドワークを行わなければならず、前もって開館日や時間などを調べて効率よく行う予定である。また三年間のプロジェクトの総括として、ハーン研究者、一般知識人(非ハーン研究者)、ポピュラー・カルチャーの特徴を明らかにし、日本におけるハーン受容の全体像を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外における資料集めなどの計画が遅れたため、経費の残が生じた。 今年度はもっと計画的に使う予定である。日本のポピュラー・カルチャーについての本はほとんど持っていないので、購買予定である。またトニー・ベネット (Tony Bennett) などの博物館理論に関する著作も購買・収集する。今年度はフィールド・ワークもあるので、旅費にも充当する。
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Research Products
(1 results)