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2013 Fiscal Year Research-status Report

高橋虫麻呂の語りの方法―萬葉和歌史における伝説歌の意義―

Research Project

Project/Area Number 24520260
Research InstitutionAnan National College of Technology

Principal Investigator

錦織 浩文  阿南工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10332066)

Keywords日本文学 / 古代文学 / 萬葉集 / うたい手 / 全知の語り手
Research Abstract

当該年度の研究計画は、前年の研究成果を踏まて、高橋虫麻呂の伝説歌における作中人物の会話の引用、心内語の引用に関する考察を進めることにあった。歌の中で伝説を再現する際に、うたい手の設定方法と会話引用、心内語引用とがどのような関連性をもつかということに注目した。
萬葉語学文学研究会に投稿した論文「浦島伝説歌におけるうたい手の設定」が、審査の結果、掲載可となり、『萬葉語文研究第9集』(和泉書院、平成25年10月)に掲載された。本論文は、虫麻呂伝説歌におけるうたい手の設定方法の差異を押さえつつ、人麻呂石中死人歌におけるうたい手の設定方法と比較しながら、浦島伝説歌におけるうたい手の設定方法の特殊性を明らかにしたものである。
浦島伝説歌では、長歌冒頭に「春の日の霞める時に 住吉の岸に出で居て 釣り舟のとをらふ見れば いにしへのことぞ思ほゆる」とうたい手が登場し、話を再現した後に、長歌末尾で再度うたい手が登場し「後つひに命死にける 水江の浦島子が 家ところ見ゆ」として閉じる。こうした叙述の構造は『萬葉集』他に例がないが、これは、物語論にいう「額縁構造」と同じ構造といえる。こうして設定されたうたい手は、あたかも「全知の語り手」のごとき資格を有することになったと思しい。
この種の語り手は作中世界とは存在基盤を異にする超越的な地点から語るという特権をもつがゆえに、作中のどこにでも位置することができ、どの作中人物の心の中を見通すことができ、事件の展開がどうなるかを掌握している。実際、浦島伝説歌のうたい手は、事の顛末、常世の様子、玉櫛笥のもつ意味をよく理解し、浦島子、わたつみの神の娘子の言動、心中を熟知している。浦島伝説歌において作中人物の会話の引用、心内語の引用が生き生きとなされているのは、こうしたうたい手の設定とかかわるものと見られる。
当該年度の研究成果は、以上のことを把握したことにある。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

高橋虫麻呂の伝説歌は四首あり、同列に論じられることが多いが、うたい手の設定方法はそれぞれに違う。浦島伝説歌は長歌冒頭と末尾とにうたい手の存在を明示し、「額縁的構造」と呼ぶべき叙述の構造を有するが、こうした構造をもつ歌は他に例がない。この構造は、作中人物の死を描きながら「おそやこの君」などと批判的にうたうために必要とされた装置であったと考えられる。すなわち、この装置を持ち込むことによって、作中世界とは存在基盤を異にする超越的な地点にうたい手を設定し、その地点から作中人物を批判的にうたうというが可能になったと考えられる。
のみならず、こうしたうたい手の設定を行ったことにより、このうたい手はいわゆる「全知の語り手」のごとき資格を有することになった。こうした資格を有するうたい手を設定したがために、この歌では、うたい手の考えを挟み込みながら積極的な語りが繰り広げられることになったと考えられる。
『萬葉集』には過去の出来事をうたう歌が少なくない。しかし、虫麻呂歌ほどに話の内容を詳細に再現する歌は他にない。虫麻呂が伝説歌人と呼ばれる所以がここにある。虫麻呂の歌だけがなぜ話の内容を詳細に再現しているのか。今まで考察してきたことを踏まえるならば、虫麻呂歌のような歌が生まれるのに大きな役割を果たしたのは、うたい手の設定方法ではなかったかという見通しが立つ。こうした見通しは、本研究申請時には思いもよらなかったところであり、こうした見通しをもつことができたという意味で、当初の計画以上に進展していると考えるものである。

Strategy for Future Research Activity

平成26年度の計画は、虫麻呂の浦島伝説歌における「改変」の様相を確認し、虫麻呂歌を愛好したラフカディオ・ハーンの浦島伝説にまつわる随筆「夏の日の夢」との比較を行うことにある。この点については、当初の予定通り、考察を進め、かつ論文としてまとめることができるものと考える。
一方、浦島伝説歌に見られる「全知の語り手」のようなうたい手は、『萬葉集』中、他に見られるであろうか。その点を今後、考えていきたい。また、『萬葉集』には過去の出来事をうたう歌がいくつかあるが、それらの歌ではうたい手の設定はどのようになされているのか。そういう観点で通史的に考察し、虫麻呂伝説歌におけるうたい手の設定方法の特色をより鮮明にしてみたいと考える。

Expenditure Plans for the Next FY Research Funding

今年度は、前年度未使用額126,978円を使用しつつ概ね計画通りに助成金を使用したけれども、当初購入予定であった書籍の在庫がなく購入できなかった関係で、24,338円ほどの未使用額が生じた。
当該研究を推進するためには、なお継続して研究書籍等を購入し考察を深める必要がある。今年度の未使用金額24,338円を含めて、必要書籍等を購入する計画である。

  • Research Products

    (2 results)

All 2013

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] 浦島伝説歌におけるうたい手の設定2013

    • Author(s)
      錦織浩文
    • Journal Title

      萬葉語文研究

      Volume: 第9集 Pages: 141-160

    • Peer Reviewed
  • [Book] 萬葉語文研究第9集2013

    • Author(s)
      萬葉語学文学研究会編
    • Total Pages
      200
    • Publisher
      和泉書院

URL: 

Published: 2015-05-28  

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