2012 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イギリスにおける公共圏文化の多層性に関する歴史的研究
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24520263
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
吉田 直希 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (90261396)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 18世紀 / イギリス / 公共圏 / 文化 / 科学 / 経済 / ジェンダー / 快楽 |
Research Abstract |
18世紀初頭のイギリスでは、宮廷や教会の権威が比較的弱く、公平無私な「公衆」が次第に文化形成の中心的役割を担うようになったと考えられている。もちろん、この合理的な公衆は悪徳に満ちた「私」と表裏一体であり、公私の緊張関係に焦点を当ててみるならば、上品なブルジョワ知識人がこの時代の文化的空洞を埋め合わせるべく俄に登場し、近代イギリス公共圏が誕生したと単純に考えることはできない。本研究は、クリフォード・シスキンらによる18世紀啓蒙主義に関する最近の代表的研究(This is Enlightenment, 2010)を批判的に検討することにより、公共圏誕生の複雑な歴史性を解明し、同時にその担い手である近代的主体の特性を文学研究の視点から解明するものである。18世紀になってはじめて、文化は商品としての価値を持つようになったが、商業化した文化がハーバーマス流の理想的ブルジョワ公共圏にどのような影響を与えてきたかは未だ十分に検討されてはいない。そこで本年度の研究では、娯楽、余興として受け入れられてきた、いわゆる「低級な」文化が、当時の舞台、雑誌、文学、絵画、演劇において、どのように販売されてきたのか、またこの種の商業文化に「公衆」がいかに接していったのかを検討した。分析の対象とした資料は、Ned Ward, The London Spy, Part X (1703)、Bartholomew Fair: An Heroi-Comical Poem (1717)、Wat Tyler and Jack Straw; Or, The Mob Reformers (1730)等である。これらの資料分析から、この時代における文化の商品化は、イングランドにおける信用経済をめぐる新しいジャンル、すなわち経済学の誕生と密接に関係していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究計画では、文化の商品化が「公衆」の誕生に果たした役割を明らかにするため、(1)コーヒーハウスと定期刊行物、ヘイマーケット、ラニラでの仮面舞踏会、ヴォクソール歓楽園とヘンデル、トマス・アーン、ホガースの演目、ジェイムズ・ラッキントンによる量販古本業と女性読者について検証する予定であった。さらに、(2)経済学と文学の一体化を特徴とするスウィフト、デフォーの作品群を取り上げ、イギリスでの信用経済を推進した「小説」の役割について考察することを予定していた。(1)については「低級な」文化が、当時の舞台、雑誌、文学、絵画、演劇において、どのように販売されてきたのか、またこの種の商業文化に「公衆」がいかに接していったのかを具体的資料の分析により一定の成果をえることができた。(2)についてはスウィフトの作品群については、一時資料の収集と分析により理論的検討の土台が出来上がったが、当初予定していた研究会を開くことができず、海外共同研究者とのメールによる情報交換の段階にとどまっている。次年度はその遅れを取り戻すため、早期に渡航し研究会を実施する予定である。以上の点から、「やや遅れている」との自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀後半には、信用経済を推進する市場拡大の流れの中で、経済/文学は徐々に互いに他を差別化するようになっていった。文学と経済が決定的に袂を分かつのは、ワーズワース、コールリッジらによるロマン主義以降であるが、18世紀を通して、小説という新しいジャンルが独自の「文学」的価値観を作り上げていったのはなぜか。今後の研究では、経済と文学の共存関係から分離独立へと向かう歴史的推移を検討することにより、文化の商品化が公共圏に与えた社会的影響について理論的考察を行っていく。さらに、「想像の快楽」を主張するアディソン、シャフツベリー、さらにはアレクサンダ・ジェラルドやバークに共通する中立的、抽象的な快楽一般を追求する美学に関する文学的言説を対象とし、商品化された文化とは異なる種類の、いわゆる「上品な」文化の創造について考察する。その際、ボイルやニュートンが主張する「自然の法則」を分析し、18世紀の科学/文学が「精神」という目に見えない存在をどのように考察するに至ったのかを歴史的に検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
各種経済学史関連資料で100万円程度 資料収集のための国内外旅費で80万円程度 研究会および専門知識の提供で20万円程度 その他で10万円程度 以上のような使用計画を立てている。
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Research Products
(1 results)