2013 Fiscal Year Research-status Report
挿入歌を手がかりとした近世英国演劇の文化史的再読可能性に関する研究
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24520264
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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Keywords | 英国演劇 / 台詞のエコー / 模倣と反復 |
Research Abstract |
国内各地の研究機関での準備的なリサーチを経て、大英図書館で、主として初期近代英国の楽曲に関するデータを閲覧取材し電子データ化を行った。当該年度の研究の過程で、体液の理論や錬金術などを接点とした音楽と数学の言説の関係の深さについて発見するところが多く、このことにより、演劇作品を媒介として音楽・空間表象がさらに数学的な記号論理とも共鳴しつつ、大きな表象文化の層を形成していることが次第に明らかになってきた。このことが演劇研究に与える影響は、上演空間論の問題にとどまらず、おそらくは作品理解にも新たな切り口をもたらしうるとの手応えを感じている。 本年度の研究の具体的成果としては、挿入歌が演劇のプロットを相対化するメカニズムを考察することから開始された研究が、演劇作品の物語的時間(プロットの時間)と舞台上での表象の時間(あえて、「上演の時間」とは区別する)との間にずれを招き入れるきっかけとしての楽曲の効果についての考察を経て、台詞そのものの反復を媒介とした変容、ずれにたいして観客の意識を引き寄せてゆくメカニズムについての、より緻密で多元的なひろがりへと接続されたことが、なによりの収穫であったと考えている。その詳細は、今後精密な議論へと纏め直される必要があるのだが、とりいそぎ第一報として、「近世初期英文学におけるエコー系譜についての覚え書き」『岩手大学英語教育論集』No. 16に、論文として公表した。 近代初期英国における、音楽と数学の言説の出会いは、さらにもうひとつのより大きな問題、すなわち時間の概念の近代化というより大きな問題へと発展する可能性を持っている。研究最終年度には、挿入歌の機能に関する考察の先に、次の研究課題として、時間論への展望を持つことができると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内容的には、本計画当初には到達していなかった新たな問題系への視点を得ることができた点で、当初計画を上回る成果を上げている。しかしその反面、当初計画にあった楽曲、歌曲と演劇作品との具体的な同定作業は、やや困難に直面していることも否めない。しかしながら、大英図書館でのリサーチを通じて一気に情報が質・量ともに向上したので、研究最終年度においては、当初計画を達成することは十分に可能であると考えている。成果の発表という観点からも、初年度は達成できなかった論文による中間報告を実現することができた点でも、当初計画にたいする初年度の遅れは十分に取り戻せたと考えている。また、最終年度を迎えるにあたり、次の研究テーマへの連続性・発展性へのたしかな手がかりを掴んでいることからも、本研究の達成度は概ね順調であると考えられるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
挿入歌をてがかりとした演劇作品の文化史的再読可能性という研究テーマは、具体的には、音楽・数学の言説をコンテクストとした、演劇作品の形式と内容双方にかかわる「時間」の問題系へと発展してゆくことが明らかになってきた。 したがって、当該研究課題の実施最終年度にあたる本年度は、この問題を考察するための手がかりとなり得るような挿入歌とドラマの文化史的再読可能性という観点に絞り込んだ考察を行うこととする。そうした集中が、当初計画の方針変更を迫るものではないかとの批判はまったくあたらない。むしろ、研究開始当初にはおぼろげだった問題が、2年間のリサーチの結果、より鮮明に研究課題として定式化されたものと考えることができる。 前年度、近世初期英国文学におけるエコーの系譜について考察しえたのは、演劇の挿入歌と台詞の位置関係の研究の成果ゆえのことであり、最終年度にはさらにそれを発展させ、ナルキッソス的、すなわち視覚を媒介とする演劇の世界認識と挿入歌による相対化の機能について考察し、より広く高次の問題系へと問いを発展させることになるだろう。手がかりとなるのは、「時」をめぐる演劇的表象の考察である。成果は確実に論文としてまとめ上げることができるだろう。
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Research Products
(1 results)