2012 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イギリス劇における視覚的表現手法の演劇空間論的観点からの研究
Project/Area Number |
24520265
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
市川 真理子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80142785)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 劇場 / 舞台 / テクスト / ト書き / ドア |
Research Abstract |
シェイクスピア劇をはじめとする初期近代イギリス劇が上演されたロンドンの劇場では、現代のような大掛かりな舞台装置は使われなかった。しかしト書きやせりふに内在する情報を細かく分析すると、舞台構造や小道具等を巧みに利用した初期近代イギリス劇特有の空間的メタファーとも呼べるような視覚的表現を駆使していたことがわかる。本研究は、現存する劇テクストを演劇空間論的観点から調査することにより、当時の劇作家たちや劇団が持っていた視覚的表現手法のレパートリーを解明することを目的とし、証拠を主としてテクストの分析から得ようとするものである。 本年度は、とりわけ、舞台と楽屋との間にあるドア(stage doors)の開閉が単に劇場空間におけるニュートラルな事象ではなくて、劇世界内でのインパクトある出来事として提示され、それが人物創造や劇全体の構造に貢献する例として、The Merchant of Venice におけるドアの使用法を論じる論文の完成を目指した。また、British Library および Folger Shakespeare Library における調査によって、同時代の他の作品に類似の例があるか確認する作業なども行った。イギリス・ルネサンス期を通してある程度普遍的に認められるものかどうか考察するためである。 さらにこの論考を進めながら、当時の上演において舞台と楽屋との間にある壁の中央開口部を被うカーテンが果した役割の大きさを認識するにいたり、それに関する諸問題を整理し始めたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はケーススタディーとして、The Merchant of Venice に関する論文を完成することを目標とした。専門家たちからリヴューを得て、研究全体の軌道の修正を必要とするか考えるためであった。幸い論文を完成させ、有益なリヴューを得た。しかし、残念ながら、British Library や Folger Shakespeare Library で十分な滞在期間をとることができなかった。それでも、新たな問題も見つかったので、おおむね順調といってよいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、本年度に引き続き、次の三つの営為を行う。 1.劇テクストの調査・分析によるデータ収集:作品テクストを一つ一つ読みながら、現在把握しているいくつかの種類の手法の例を収集するとともに、新たな種類の手法の発見にも努める。 2.関連する諸研究の調査および研究:関連する諸研究の調査および研究データを分析し議論を深めていくために、シェイクスピア時代の劇場、舞台、演技や、劇団などに関する諸研究は当然ながら、演劇全般を対象とする空間論だとか、記号論や表象論なども視野に入れた調査および研究を行う。 3.論考の作成および理論の構築:オリジナル・ステイジングや関連諸分野の研究者たちのリヴューを求めるため、研究の一端をなす問題に関して新たな論文を書く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初計画していた British Library および Folger Shakespeare Library における調査の一部を延期したためであり、延期した調査に必要な経費として平成25年度請求額と併せて使用する予定である。
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Research Products
(4 results)