2013 Fiscal Year Research-status Report
ヴィクトリア朝の文学テクストによる自殺の社会的・心理的要因の解明
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24520278
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181708)
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Keywords | 自殺 / 狂気 / ヴィクトリア朝 / ディケンズ / ギャスケル / ギッシング / 社会的文脈 / 心的文脈 |
Research Abstract |
平成25年度も24年度に引き続き、ヴィクトリア朝作家の中で自殺の諸相をもっともユニークに描いたディケンズの作品に焦点を絞り、明示的/暗示的に描写された自殺に関する言説を分析した。自殺は時代精神と社会風潮(特に社会ダーウィニズム的な世界観)が人間を抑圧して孤立感と絶望感という心理的負荷を与えた結果として生じる現象であるという仮説を立て、ジェンダー、階級、人種において支配的立場にある権力側の抑圧によって弱者が陥る狂気との関係、そして政治、経済、法律、宗教、教育、医療などの権力が偏りやすい非合理的な社会構造を理論的アプローチと実証的アプローチの両面から考察することを通して、この仮説の実証を試みた。その成果は“Bedlam Revisited: Dickens and Notions of Madness”という論文となり、The Dickens Fellowship (London) 発行の国際ジャーナル The Dickensian の最新号(109巻3号、Winter 2013)に掲載された。この論文はディケンズ作品において人間が一定の社会的状況のもとで示す狂気のメカニズムを解明したもので、その論証の主たる対象は権力や権威の側による狂気の恣意的な定義のために社会で周縁化された弱者が罪悪感や絶望感によって自殺に駆り立てられるメカニズムである。同時に、逆様の世界という語りの戦略によって、狂気を定義する者の側に潜在している狂気が弱者の言動によって逆照射される点も考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、ディケンズ生誕200年記念として『ディケンズ文学における暴力とその変奏』の編集と同時に、ディケンズ文学における自殺の研究を行っていたが、その発展的な成果として投稿した英語論文が25年度には国際雑誌The Dickensianに掲載された。 順調に終了したディケンズ研究に続き、26年度はギャスケル、27年度はギッシングの作品に見られる自殺の言説とそのコンテクストを精査し、ヴィクトリア朝の時代精神と社会風潮に抑圧されて自殺を企図した人々の心理構造と心的プロセスを解析することで、自殺の社会的・心理的要因を突き止めて類型化する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ディケンズと同時代の女性作家ギャスケルと彼の影響を受けたギッシングの作品における自殺の言説分析を進めると同時に、自殺を助長するヴィクトリア朝の人々の思考や習俗などの根底 にあるエートスについても考察する。 2015年はギャスケルの没後150年にあたるので、現在はギャスケル文学における「悪」とその変奏について国内外の主なギャスケル研究者たち(具体的には日本を含めた16ヶ国、32名)による記念の英語論文集、Evil and Its Variations in the Works of Gaskell: A Sesquicentennial Commemorative Volume を出版に向けて準備している。研究代表者が担当するのは North and South であるが、ヴィクトリア朝の社会的および心理的文脈との相関性を押さえながら、労働者 Boucher を自殺に駆り立てた社会問題とそれに対してギャスケルが提示した解決策を明らかにしたい。出版予定の英語論文集の目次は以下のとおり。 http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~matsuoka/gaskell/gaskell-150-lineup.pdf
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残金60円では研究に必要なものは何も購入できないため。 少額なので次年度交付額に加えて使用する。
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Research Products
(6 results)