2014 Fiscal Year Research-status Report
ヴィクトリア朝の文学テクストによる自殺の社会的・心理的要因の解明
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24520278
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181708)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自殺 / 狂気 / ヴィクトリア朝 / ディケンズ / ギャスケル / ギッシング / 社会的文脈 / 心理的文脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、ヴィクトリア朝作家の中で自殺の諸相をもっともユニークに描いたディケンズの作品から、主たる焦点をディケンズから才能を見出された同時代の女性作家ギャスケルの作品に移し、明示的/暗示的に描写された自殺に関する言説を分析した。ギャスケルの前期に集中している社会問題小説(Mary Barton, Ruth, North and South)では、労働者たちとその劣悪な生活環境が細部描写されており、ヴィクトリア朝の時代精神と社会風潮を支配していたイデオロギーとしての自由放任主義によって、労働者たちの貧困をすべて自己責任の問題に帰す工場主に代表される有産階級の非・キリスト教的な無関心が無作為の罪(sins of omission)として提示されている。 労働者階級の人間が駆り立てられる自殺の大半は、ジェンダー、階級、人種において支配的立場にある権力側が人間を抑圧して孤立感と絶望感という心理的負荷を与えた結果として生じる現象である。そうした仮説の実証は、権力側が偏りやすい非合理的な社会構造を理論的アプローチと実証的アプローチの両面から考察することを通して可能となるが、それをギャスケルの作品 North and South を中心に行った。 本年度の研究成果は出版という形にはならなかったが、ギャスケル没後150年記念として Evil and Its Variations in the Works of Elizabeth Gaskell の編集し、科学研究費補助金(研究成果公開促進費)に申請した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、社会で周縁化された弱者が罪悪感や絶望感によって自殺に駆り立てられるメカニズムを念頭に、ギャスケルの社会小説 North and South の論文 ""There's Good and Bad in Everything: The Status Quo as a Necessary Evil in North and South" を執筆し、同時にギャスケル没後150年記念として Evil and Its Variations in the Works of Elizabeth Gaskell の編集し、科学研究費補助金(研究成果公開促進費)に申請して交付内定を受けることができた。 順調に終了したギャスケル研究に続き、最終の27年度はギッシングの作品に見られる自殺の言説とそのコンテクストを精査し、ヴィクトリア朝の時代精神と社会風潮に抑圧されて自殺を企図した人々の心理構造と心的プロセスを解析することで、自殺 の社会的・心理的要因を突き止めて類型化する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ディケンズの影響を受け、彼の評論を書いたギッシングの作品における自殺の言説分析を進めると同時に、自殺を助長するヴィクトリア朝の人々の思考や習俗などの根底 にあるエートスについても考察する。また、2015年はギャスケルの没後150年にあたるので、研究成果公開促進費を受けたギャスケル文学における「悪」とその変奏について国内外の主なギャスケル研究者たち(具体的には日本を含めた16ヶ国、32名)による記念の英語論文集を出版する。この英語論文集の目次は以下のとおり。 http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~matsuoka/gaskell/gaskell-150-lineup.pdf
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Causes of Carryover |
残金1,351円では研究に必要なものは何も購入できないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
少額なので次年度交付額に加えて使用する。
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Research Products
(1 results)