2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝の文学テクストによる自殺の社会的・心理的要因の解明
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24520278
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181708)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自殺 / 狂気 / ヴィクトリア朝 / ディケンズ / ギャスケル / ギッシング / 社会的文脈 / 心理的文脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の前半は、ギャスケルの社会問題小説、特に『北と南』の中で明示的/暗示的に描写された自殺に関する言説を含めた形で、ヴィクトリア朝の時代精神と社会風潮を支配していたレッセフェールによって労働者たちの貧困をすべて自己責任の問題に帰した工場主に代表される有産階級の非・キリスト教的な無関心という無作為の罪(sins of omission)に注目し、““There’s Good and Bad in Everything”: The Status Quo as a Necessary Evil in North and South” という英語論文を書き、編著Evil and Its Variations in the Works of Elizabeth Gaskell に収めて大阪教育図書から6月30日に出版した。後半は、後期ヴィクトリア朝の自然主義文学を代表するギッシングの初期における9つの短篇を翻訳するとともに、“The Sins of the Fathers” と “R.I.P.” のそれぞれの女主人公が自殺に至る経緯を分析し、その主たる原因は父長制の既成のパラダイムが女性を二者択一の商品であるかのように〈家庭の天使〉と〈堕ちた女〉という二つのカテゴリーに分類していたヴィクトリア朝社会における身分違いの結婚へのギッシングの運命論的な悲観主義から生れたものであることを実証した。 研究期間全体では、編著『ディケンズ文学における暴力とその変奏』(2012年、大阪教育図書)に収めた『オリヴァー・トゥイスト』における「孤独からの逃走」において禁欲的な経済活動への専念や社会的強者への服従の中に自殺とは別の形態が見られることを論証した。また、2013年は国際雑誌 The Dickensian に掲載された論文(Bedlam Revisited: Dickens and Notions of Madness)で、自殺に至る狂気を男性の理性に対する女性の属性とする精神病院の権威の欺瞞性へのディケンズの諷刺的批判を分析した。
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Research Products
(3 results)