2012 Fiscal Year Research-status Report
〈スキャンダラス・メモアリスト〉女性作家と異国トポス
Project/Area Number |
24520283
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
服部 典之 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50172937)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | スキャンダラス・メモアリスト / ジャマイカ / 自伝文学 / サミュエル・リチャードソン / パミラ / フィリップス夫人 |
Research Abstract |
2012年度は、本研究の中核をなすT.C.Phillipsの自伝_An Apology for the Conduct of Mrs. T.C.Phillips_という浩瀚な作品の研究を主に行った。本作品中のジャマイカ滞在記の描写が、同時期の作品であるリチャードソンの『パミラ』や、後の文学作品のシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エアー』に見られるジャマイカ表象と強いつながりを持つことを実証した。その成果を、2012年7月21日のブロンテ協会関西支部夏季大会の招待講演(タイトル「ジャマイカと女たちーーサリー、コン、バーサ」)で発表した。 本研究のスキャンダラス・メモアリストの一人であるMary Wortley Montagueは長いイタリア生活を送っており、その資料がミラノのアンブロジアーナ図書館にあり、海外出張によりその調査も行った。モンタギュ夫人のトルコ表象、イタリア表象などの調査を通して、異国表象の実態がかなり明らかになった。 研究の中核となるフィリップス夫人の自伝にはいくつか版があり、その異同の実証学的研究も本課題の重要項目となる。稀覯本であるその自伝をカリフォルニア大学ロサンジェルス校附属図書館が有しており、海外出張により、その貴重な版を徹底的に調べることができた。先行研究がほとんど行われていない本課題については、このような地道な努力が必要であり、この意味で一年目の目的はほぼ果たされたといえよう。 論文執筆も二本行い、『〈アンチ〉エイジングと英米文学』では「レイプされる少女から蕩尽する悪女へ――T・C・フィリップス女史の数奇な人生――」という論文を執筆した。これは本研究を推進する重要な成果であるといえる。 大阪大学文学研究科内共同研究においても「「女性版グランドツアー?――恋と逃走のジャマイカの発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記述したように、2012年度は本研究課題に関する研究発表を一件、招待発表を一件行い、論文を二本執筆した。初年度は、主に資料収集と一時文献の読解と調査が主たる目標であったが、これだけの研究業績を挙げることができたことは、計画以上の進展であるといえる。 研究発表では、他分野の研究者に本研究の重要性を啓蒙でき、招待発表では専門的で独創的所見を披瀝することができた。論文執筆では、フィリップス夫人の自伝の概要に関して、エイジングとの関わりで先行研究では方向性から切り込むことができた。これらを総合して考えると、一年目の成果としては、当初の計画を越えたものと判断するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究のほとんどないスキャンダラス・メモアリストに関しては、まだまだ一時文献の研究すら十分行われていない。フィリップスの種々の版本に関しての実証的研究に加えて、モンタギュ夫人、グーチ夫人に関しても、現地調査を十分に行う必要がある。海外調査に加えて、本年も札幌での研究発表を行ったように、引き続き国内での啓蒙活動を行いたい。英文学史に記述されていないばかりか、名前さえ知られていないスキャンダラス・メモアリストたちは、その文学的意義を十分に知らしめる必要がある。 研究発表による活動とともに、広く読まれる可能性のある書物の出版や、論文集への関係論文掲載を行う。三年間の活動によって、まとまった成果として後世に残る成果を挙げたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一年目に行うはずであった大英図書館での調査が、アメリカでの調査を先行させたために未着手である。次年度の2013年度は、海外出張による大英図書館での異本の校合や調査が最重要なものとなる予定である。 東京大学、東京女子大学で開催される研究会での研究発表も、啓蒙活動、およびほかの作家等の研究者とのディスカッションの中で、深い洞察も得られるのは間違いがなく、何度か国内調査で行う予定である。資料が少ない中、各所での資料収集も積極的に行う。 関係論文としては「阪大英文学会叢書」に執筆予定である。関係書物である『ガリヴァー旅行記徹底注釈』を岩波書店から刊行することが決まっている。
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Research Products
(4 results)