2014 Fiscal Year Research-status Report
20-21世紀アメリカ演劇の政治学研究―1900年からポスト9.11
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24520284
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
貴志 雅之 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (30195226)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ演劇 / 政治学 / ユージーン・オニール / ポスト冷戦 / トニー・クシュナー / 災害 / デヴィッド・リンゼイ=アベアー / パラレル・ユニバース |
Outline of Annual Research Achievements |
平成 26 年度研究実績は大きく以下の4つに分類される。 (1)2013年9月の第3回日本アメリカ演劇学会シンポジウム「オニールのアメリカ」で発表したユージーン・オニールのドラマトゥルギーに関する政治学研究をさらに展開し、論考「ユージーン・オニール、反逆の演劇の軌跡 ― 詩人、所有者、憑かれた者たちの弁証法」を『アメリカ演劇』第26号(ユージーン・オニール特集III)(2015年3月)で発表。(2)冷戦時代から9.11アメリカ同時多発テロを経た現代に至るポスト冷戦時代のアメリカ演劇の政治的表象戦略の研究成果として「天界と人間界、災害を生き抜く政治学 ―トニー・クシュナーの『エンジェルズ・イン・アメリカ』」を共著『災害の物語学』(世界思想社,2014年5月)で発表。(3)21世紀アメリカ演劇のドラマトゥルギーの方向性と家族・個人・社会の演劇表象に関する研究「子供の死とパラレル・ユニバース―David Lindsay-AbaireのRabbit Holeをめぐって」を平成26年度 中・四国アメリカ文学会冬季大会シンポジウム「アメリカン文学における幸せの追求」(2014年12月13日,県立広島大学)で発表。(4)「20-21世紀アメリカ演劇研究の政治学」に至る布石として19世紀のエドガー・アラン・ポーの演劇政治学を現代アメリカ演劇の視点から再検証した研究「黙殺される劇作と劇評 ― アメリカ演劇におけるポーのパフォーマンスとその評価」を日本ポー学会第7回年次大会シンポジウム「ポーとアメリカン・シアター」(2014年9月13日,慶應義塾大学三田キャンパス)で発表した。 以上の業績のうち(1)は当初の平成25年度研究計画のものをさらに発展させた研究であり、(2)と(3)は平成26年度研究計画を実行したもの、(4)は上記のとおり、本科研テーマで「20-21世紀アメリカ演劇研究の政治学」に至る歴史的布石の重要性を鑑み、その再検証を行ったものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、平成26年度は9.11アメリカ同時多発テロを経た現代に至るポスト冷戦時代に焦点をあて、アメリカの政治社会的事件・事象とアメリカ演劇の表象戦略を比較検討する計画だった。昨年の実績報告で記載したオーガスト・ウィルソンの「20世紀サイクル」における人種的遺産継承の政治学研究により、本年度研究計画の一部をすでに前倒しで実行した。また本年度研究実績で示した(2)のクシュナーの『エンジェルズ・イン・アメリカ』に関する「災害を生き抜く政治学」研究と(3)のリンゼイ=アベアー研究は本年度研究計画で焦点化したものである。(2)は、『エンジェルズ』をオゾン層の破壊、地球温暖化、原発事故がアメリカ国内を越えて日本の福島原発事故問題にも通じる21世紀の世界的人災の教訓と対処の問題を問いかける作品として再検討した。リンゼイ=アベアーの『ラビット・ホール』を扱った(3)では、現代アメリカの社会問題・事象となっている子供の死に苦しむ夫婦を描く本作が「パラレル・ユニバース」という先端的理論に基づくSFナラティヴに救いの可能性を示唆する作品展開とその意義を検討した。以上(2)と(3)で、本年度計画のポストモダン・アメリカ演劇表象戦略の研究が大きく進展したと言える。加えて、当初計画にはなかった(4)のエドガー・アラン・ポーの演劇政治学研究は、「20-21世紀アメリカ演劇研究の政治学」に至る19世紀演劇政治学を再評価する点で、本科研プロジェクトの進展に資するものであったと考える。 以上から、全体として研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「現在までの到達度」が示すように、これまでの進捗状況は良好である。最終年度となる平成27年度は、過去3年間に集積・解析したアメリカ演劇政治学資料と研究項目間の相互関連性と連続性を重要視し、20世紀初頭から21世紀 に至る1世紀あまりのアメリカ演劇の政治学の通時的流れと志向性を総括し、アメリカの支配的政治イデオロギー・言説・政策を脱構築する現代アメリカ演劇の政治学を可視化、定位することを方向で研究を進展させる。その研究成果を随時、発表するとともに、アメリカを劇場国家として検証するアメリカ演劇国家論を射程に、21 世紀アメリカ演劇の演劇政治学の方向性を推測するに十分な体系的演劇政治学として構築し、その成果の刊行もしくは刊行準備を図ることを目標とする。
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Research Products
(5 results)