2014 Fiscal Year Annual Research Report
オリエンタリズムと近・現代における日本の「伝統的」物語の創出
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24520285
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
遠田 勝 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (60148484)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハーン / 小泉八雲 / 「破られた約束」 / オリエンタリズム / 民話 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ハーンの『怪談』に典型的にみられる、語りの「オリエンタリズム」が、明治日本の欧米知識人に、「輸出向け」の日本の物語を構想させ、場合によっては、それが翻訳や翻案を通じて逆輸入され、近代日本における「伝統的」物語の創出に関与していたことを調査・証明しようとするものである。最終年度にあたる本年度は、オリエンタリズムに関わる、近代日本のさまざまな伝説・民話・物語についての文献資料の収集と整理を行うとともに、その成果の一部を利用し、ハーンが出雲民話に取材したといわれる「破られた約束」の成立過程の考証を行った。この物語の原話は、純粋な出雲地方の口承伝説ではなく、江戸時代に書物として広く流布していた『諸国百物語』の一篇「豊後の国何がしの女ばう死骸を漆にて塗りたる事」という物語に由来しており、書承と口承が入り交じり、基本的には書物からの口碑化を経て、ハーンにより英語化され、日本語への再度の翻訳をへて、出雲の民話として広く知られるようになったのである。ここにもまた「雪女」と同様の、日本の民話、伝説の複雑な成立伝承過程を見ることができる。 ハーンの「破られた約束」は、従って、日本の民俗的伝統である「後妻打ち」説話を英語化したものといえるのであるが、たんなる英語化を越えた、大きな改変と創造がほどこされている。それは、作者自身が物語のなかに登場しコメントを差し挟む「ロマンティック・アイロニー」という西洋近代ロマン派文学特有の技法で、ハーンはこの作品の末尾で、自ら登場し、異議を唱えるような形で、怨霊となった前妻の殺人行為に、フェミニズム的理解と共感を示しているのである。物語そのものが伝わった「雪女」のケースとは異なり、技法とスタンスの問題であるので、実証は難しいものの、こうした西洋近代文学の語りの手法の伝統的物語への導入は日本の民話作家たちに大きな驚きと影響を与えたと思われる。
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Research Products
(2 results)