2012 Fiscal Year Research-status Report
イングリッシュネスのなかのカソリシティ--新しい伝統の創成過程研究
Project/Area Number |
24520287
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | G.K.チェスタトン |
Research Abstract |
近代国民国家イングランドはナショナルアイデンティティを構成する文化伝統・規範としてプロテスタンティズムを選択したが、本研究は、その外に位置し、「異形なものの」としてイングランドの体制文化を聖化する役割を担わされてきたカトリシズムが、どのようして「英文学」として組み込まれる作品を生み出したのかを考察する。イングランド文化を規定するイングリッシュネスにカトリシズムの価値体系がいかに対峙され、どのようにカソリシティがイングリッシュネスに包摂されていったのか、二人の代表的カトリック作家、チェスタトンとエリオットを中心に検証することを目的とする。 本年度は、まずヴィクトリア時代後期に生まれ、世紀末に成人し、エドワード7世時代にジャーナリスト、批評家、作家として、反時代的な言説を発表して名を成したチェスタトンの「リトル・イングランド主義」の特質を明らかにした。わが国のチェスタトン理解はもっぱらブラウン神父ものの推理小説家としての姿が強調されているので、本研究は英米の研究に追いつく為にも意義があると言える。 チェスタトンは世紀末の無神論と戦い、(アングロ・)カトリシズムに生きるようになっていた。ボーア戦争を契機に当時の体制派の誰もが受け入れていた(フェビアン主義者ら社会主義者、リベラル派すらも支持していた)「大英帝国主義」を明確に拒否し、イングランド精神の真のあり様を全ての民族、国家の自治を保証するpatriotismに求め、他国、他民族を飲み込み無限に拡大する帝国主義を批判した。近代の悪弊の起源を宗教改革に求め、中世に問題解決の理想型を見た。 チェスタトン初期の「愛国心」を明らかにする為に不可欠な文献、Lucien Oldershaw, ed., England: A Nationは、国内はもとより、古本のネット販売でも入手が不可能な稀覯本を英国図書館で閲覧できたことは幸いであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では年度内にG.K.チェスタトンの「イングリッシュネス」の特質と愛国心のありようについて、論文にまとめる予定であったが、学内行政職に予想以上の時間が取られ、資料の読み込みと構想の段階にとどまり、まとめることが出来なかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
カトリシズムをイングリッシュネスに含まれるべき価値の体系として広く認知させるのに決定的役割を果たしたのは間違いなくT.S.エリオットである。アングロ・カトリシズムへの回心の翌年、1928 年に行った有名な「文学においては古典主義者、政治においては王制主義者、宗教においてはアングロ・カトリック」という自己規定にみられる三つのアイデンティティが、どのように連関しているかを検討し、これら三つの要素がイングリッシュネスの構成要素たり得るのか分析する。アメリカに渡った先祖の道を逆行してイングランド人となった「移住者」「越境者」エリオットが、両大戦間期において、なぜ17 世紀はじめのジャコビアン時代のイングランドに理想社会を見出すのか、文芸批評家として活動し、英文学の伝統の中身として19 世紀までに確立していた国教会とホイッグ主義を、トーリー主義とヨーロッパ主義を含むものに書き換え(ミルトン批判が想起される)、ニューマンらのオックスフォード運動によって再発見された国教会のカトリック伝統を新しいキャノンの創造によって確定させた彼の文学的営為と併せて考究する。『四つの四重奏』が最重要の考察対象となるが、その際Jed Esty が明らかにしたように、帝国の解体過程におけるイングランド伝統文化への文化人類学的関心と、それと関連するキリスト教祭儀への関心が議論の出発点を提供するという仮説のもとで研究を進める。 日本では読むことが困難であるカトリック教会とイングランド教会の雑誌、その他の刊行物を閲覧するために、今年度もブリティッシュ・ライブラリに出張する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額30,000円は、直接経費の大半が英国図書館への出張と物品の購入で使用された残額であり、年度末に物品をこまごまと購入するよりは、次年度の図書費に合算して使用するほうが賢明であると判断した。
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Research Products
(2 results)