2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカのマイノリティ文学における境域の意義と文学ジャンルの形成
Project/Area Number |
24520296
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
喜納 育江 琉球大学, 国際沖縄研究所, 教授 (20284945)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / マイノリティ / トランスナショナル / 境域 / ボーダー / ディアスポラ |
Research Abstract |
本研究は、これまで多文化主義的文学批評によって分類・体系化されて続けてきたアメリカの「マイノリティ文学」を身体および地政治性などによって生じるさまざまな「境域」という視点から捉え直し、トランスナショナルな視野の中で再定義することを目的としている。本年度は、特にアジア系アメリカ人文学において「マイノリティ」の定義がどのように変遷してきているか、昨今のポストコロニアル批評やアジア系ディアスポラの現実が、アジア系アメリカ人作家の歴史認識にどのような影響を与えているかといった手始めの問いを、カリフォルニア州で執筆を続けるアジア系アメリカ人のカレン・テイ・ヤマシタやトリン・T・ミンハの最近の著作を手がかりとして考察した。ヤマシタもトリンも、アイデンティティポリティクスとしての「マイノリティ」作家としての視野を越え、グローバルなコンテクストにおいてそれぞれの持つ「境域性」を表現している点で共通していることを確認した。トランスパシフィックな想像力と新しいアメリカ文学の創造の拠点という意味で、来年度もカリフォルニアという場所がもつ地政治的な意味を探究していくことには意義があると思われる。 また、本年度は、アメリカの南西部と日本における沖縄に共通する「文化的境域性」について、その普遍性や共通性を問いかけるために、ニューメキシコ大学のエンリケ・ラマドリッド教授およびアナ・ノガール准教授をはじめとするアメリカ南西部の研究者たちに、ニューメキシコ大学内で私の講演会を開催していただいた。アメリカ南西部の境域性や国際的な研究交流に興味をもつ多くの方々と「境域」の定義について対話や意見交換ができたことは有意義な機会となり、次年度以降の研究を進めるうえでも重要な示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の初年度に「境域文学」のジャンル形成に寄与すると思われる作家や批評家を発掘するという当初の計画は、カレン・テイ・ヤマシタやトリン・T・ミンハといった著者の言説を見いだすことによって概ね達成されたと言える。多文化主義やポストコロニアル批評に関する知識も順調に深め、カリフォルニア州でのインタビュー調査やニューメキシコ州の国境付近の地域におけるフィールド調査を通して、当初の予想をはるかに超える知見を得ることができていると言えるが、一方で本年度に着手すべきだったフィリピンやインドを背景とするアメリカ文学の作品については、調査および考察がやや遅れていることから、全体では「やや遅れている」の評価が妥当であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「境域文学」、「移民」、「ディアスポラ」といった概念や、アメリカの国内における地政治性が、アメリカ文学の中で「マイノリティ文学」という認識を生み出し、「マイノリティ」をアイデンティティポリティクスに限定して定着させがちな多文化主義的な思考枠を揺さぶっている現実があることが想定されるが、来年度は、「場所」と「社会」といった概念が、どのように有機的に結びつき、関連しながら思想を構築しているのかについて理解を深め、理論化を試みる必要がある。こうした展望のもと、引き続き関連資料の収集、講読、分析をすすめ、また資料のみの言説に頼るだけでは解明しにくい点については、実際に書き手や関連分野の研究者にインタビュー調査を行い、本研究の成果に結びつけていく必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究に関連する研究資料やその整理および研究成果の整理と推進に係る物品の購入費のほか、インタビュー調査や資料収集のための国内外調査に必要な旅費等に加え、資料の収集と整理に係る謝金が必要となる。
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Research Products
(4 results)