2012 Fiscal Year Research-status Report
「共同性なき共同体」の可能性:ジョウゼフ・コンラッド後期作品の再考
Project/Area Number |
24520301
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 / コンラッド / フランス / ポーランド / イギリス / 現代大陸思想 / 英文学 |
Research Abstract |
ジョウゼフ・コンラッドの後期作品における「共同体」の特異性を、コンラッドの祖国ポーランドとリトアニアからなる16世紀の「ルブリン合同」のコスモポリタン的民主主義との比較によって明らかにするとともに、ヨーロッパ大陸の現代哲学が西欧的個人主体批判の文脈で論じる「共同性なき共同体」と関連付けて考察する本研究では、コンラッドの晩年の歴史小説『サスペンス』における「歴史」を直截な歴史的事実の描写としてよりは、「連帯」する「共同体」における「記憶の分有」の可能性の問題として考察した。その成果は、"Toward a Possible Partage of Memory: 'History'and 'Solidarity' with the Others in Joseph Conrad"と題して平成24年度、ポーランドのグダンスクで開催された国際学会、"Solidarity, Memory and Identity"にて発表した。この発表では、これまでほとんど顧みられることのなかったコンラッド晩年の歴史小説『サスペンス』を、民主主義の来るべき姿を模索するものとして読み直し、想像力の衰えた晩年の作家のノスタルジーの表出としてではなく、敵/味方、作者/読者、死者/生者間で「分有」される可能性としての「歴史」の表出として再評価した。発表原稿は、学会後Cambridge Scholars Publishingから出版されるpost conference bookに掲載されることが決定している。また、平成27年度に英国で出版予定の著書の第1章となる「秘密の共有者」論を組み込んだ論考を日本語で『「自己」の向こうへ』と題して先に大学教育出版より上梓した。同じく英語著書の一部となる『放浪者』論がフランスのコンラッド学会の学会誌L'Epoque Conradienneより今年出版されることに決まった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジョウゼフ・コンラッドの後期作品における「共同体」の特異性を、コンラッドの祖国ポーランドとリトアニアからなる16世紀の「ルブリン合同」のコスモポリタン的民主主義との比較によって明らかにし、ヨーロッパ大陸の現代哲学が西欧的個人主体批判の文脈で論じる「共同性なき共同体」と関連付けて考察する本研究では、コンラッドの晩年の歴史小説『サスペンス』における「歴史」を直截な歴史的事実の描写としてよりは、「連帯」する「共同体」における「記憶の分有」の可能性の問題として考察し、"Toward a Possible Partage of Memory: 'History'and 'Solidarity' with the Others in Joseph Conrad"と題して平成24年度、ポーランドのグダンスクで開催された国際学会、"Solidarity, Memory and Identity"にて発表した。その発表原稿は、学会後出版されるpost conference bookに掲載されることが決定しており、現在編集・校生作業中である。一方、コンラッド後期における「共同性」をポーランド・リトアニアからなる「ルブリン合同」と比較しつつその特異性を浮き彫りにする作業は、今回の国際学会でグダンスクを訪れた際に一部行ったが、論考に組み入れる前の資料整理段階にある。グダンスク国際学会での発表とそこでの研究者同士の意見交換によって、平成25年度に発表予定の中編「決闘」における「歴史」の問題の構想が固まった。
|
Strategy for Future Research Activity |
コンラッドの政治エッセイ、「専制政治と戦争」「ポーランド再訪」、『個人的回想録』の中で論じられている(ヨーロッパ)「共同体」の問題を分析するという平成26年度の計画に現在取り組んでおり、その成果を、ナポレオン戦争時代の逸話に基づく「決闘」という中編の分析と合体させて一つの論考にまとめ、平成25年度東京で開催される第一回コンラッド学会にて口頭で発表する。学会後、この発表原稿を論文に拡大する。この論文は、平成27年度に英国での出版を予定している著書の重要な部分を占める研究である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、グダンスクでの国際学会の際に「ルブリン合同」に関する調査も合わせて一部行ったが、引き続きポーランドおよびフランスでの調査が必要であり、次年度に行うことを予定している。また、英語論文をまとめて著書にする作業が進んでいるので、次年度研究費は、平成25年度の英国での調査・面談にも使用する予定である。
|