2012 Fiscal Year Research-status Report
19-20世紀転換期のブラック・フェミニズムにおける政治的言説
Project/Area Number |
24520308
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
宮津 多美子 順天堂大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60509660)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブラックフェミニズム / 黒人女性 / 女性クラブ / 再建期 / 革新主義の時代 / 女性参政権 / 高等教育 / 女性運動 |
Research Abstract |
この研究は、南北戦争後から20世紀初頭にかけてのアメリカ社会で「奴隷制」という民族の過去と向き合い、人種差別・ジェンダー差別と戦ったアフリカ系アメリカ人(黒人)女性フェミニストたちの著作や講演における政治的言説から第一波ブラックフェミニズムの詳細を明らかにし、その役割を歴史的に位置づけるものである。この研究では日本ではあまり取り上げられてこなかった南北戦争後からハーレムルネッサンス期前までの黒人女性指導者(作家・教育家・活動家)に注目して研究を進めている。 今年度は1896年に黒人女性(婦人)クラブを取りまとめ、全米レベルの組織「全国黒人女性協会」(National Association of Colored Women)結成へと導いた黒人女性指導者メアリー・チャーチ・テレルを中心に研究を行った。奴隷の子供として生まれたテレルは経済的成功を果たした父親の下で当時の黒人としては珍しいほどの高等教育を施された。最も早く学士の学位を取得した黒人女性の一人でもある。教員の職を得て働き始めた後も父親の経済的援助を受けてヨーロッパへの留学を果たし、フランス語・ドイツ語を習得している。その後、黒人知識人の代表としてNACWの初代会長に就任した。会長を退いた後も公的機関の要職を歴任し、晩年にいたるまで政治的な言動を通して次世代の黒人女性フェミニストたちに啓示を与え続けた。確かに彼女は恵まれた家庭環境にあったものの、黒人女性であった彼女が数々の要職を勝ち取るまでに乗り越えた障害は数限りない。 今年度はテレルの伝記および北部を中心に黒人女性クラブの活動概要について研究を行ったが、彼女自身の著作等の一時的資料が入手できず、十分な研究成果を残すことができなかった。来年度は成果の発表につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
メアリー・チャーチ・テレルの伝記および評論は入手できたものの、テレル自身の著書およびエッセイ、講演等の一次資料の入手に予想外の時間がかったために研究成果としてまとめることができなかった。テレルをはじめ、この時期の黒人女性作家・活動家に関しては一部の著名な人物(フランシス・エレン・ハーパー、アイダ・B・ウェルズやその次の世代のメアリー・ベシューン等)を除き、関連資料や研究書が少ないのが現状である。テレルに関しては、年度末に一部手に入ったものもあったが、未だ十分とはいえない。今後研究予定の他の黒人女性活動家の中にも資料入手が困難な人物が少なからず存在することから、今後は現地調査等も含め、一次資料および二次資料の収集に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
南北戦争期に生まれたアフリカ系アメリカ人(黒人)は単に識字能力獲得だけでなく、経済的安定や社会階層の向上を目指し、高等教育機関で学問を修めることを目指した。これら新世代の黒人の中には教育の重要性を訴え、教育によって自己を、そして民族全体を向上させることを訴えた女性知識人も多い。今後はメアリー・チャーチ・テレルだけでなく、他の女性知識人たち、フランシス・エレン・ハーパーやアンナ・ジュリア・クーパーらについても研究を進めていきたい。これらの黒人女性が民族向上のために果たした役割をその著作から検証したい。このとき、当時のW・E・B・デュボイスとブッカー・T・ワシントンの高等教育・職業教育論争や白人女性の教育に関する見解等にも触れながら、大局的にその歴史的役割を考察したい。 さらに、再建期後、法制化されたはずの黒人男性の参政権が剥奪・抹消され、学校・職場・社会での人種差別が激化する中、反リンチ運動を通じて同胞を鼓舞したアイダ・B・ウェルズの活動も併せて検証していきたい。当時、人種・ジェンダーの二重差別下にあった黒人女性からの急進的な発言は論争を巻き起こしたものの、ウェルズの勇敢な言動は同時に黒人女性たちを結束させ、様々なレベルの黒人女性組織を誕生させた。黒人女性には参政権は必要ないと考える白人女性の人種差別的態度に対して黒人女性はどのように対応したのか、女性クラブや全国黒人女性協会(NACW)を通じて女性たちはどのような活動を行ったのか、これらの女性は、教育・参政権・自立を手に入れるためにどのような戦略をとったのか等について考察しながら、この時代のアメリカの黒人女性運動の歩みを概観したい。そして、再建期から20世紀初頭までの全世界的な女性運動という大局的な枠組みの中でその歴史的重要性を再考したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続きメアリー・チャーチ・テレルの著作物(記事、講演、自伝等)の収集を行うとともに、同時代の他の黒人女性活動家フランシス・エレン・ハーパー、アンナ・ジュリア・クーパー、アイダ・B・ウェルズやファニー・バリー・ウィリアムズ、ジョゼフィン・セントピエール・ラフィン、ヴィクトリア・アール・マシューズなどの著作および伝記(自伝)等の資料入手も現地調査を含めて試みたい。さらに、これらの女性作家・教育者・活動家たちが啓示を得た当時のヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツ、北欧諸国等)の女性運動やフェミニストらに関する文献も可能な限り収集し、研究成果につなげていきたい。
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Research Products
(1 results)