2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520312
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
野口 啓子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60180717)
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Keywords | 反奴隷制文学 / ストー |
Research Abstract |
本研究は、19世紀中葉の奴隷制をめぐる言説を文学としてとらえ、その間テクスト性を視座に据えながら、それらがもう一つのアメリカン・ルネッサンスを形成した可能性について、このテーマに多大な影響を及ぼしたハリエット・ビーチャー・ストーの『アンクル・トムの小屋』を中心に検証しようとするものである。 初年度は、「初期反奴隷制文学」の時代として、1850年代以前の反奴隷制文学を考察した。その際に、これまでほとんど取り上げてこられなかったリチャード・ヒルドレスの『奴隷 アーチー・ムーアの記憶』というスレイヴ・ナラティヴを模した反奴隷制小説を発見することができ、この作品が黒人によるスレイヴ・ナラティヴやストーの『アンクル・トムの小屋』、さらにリディア・マリア・チャイルドの『共和国のロマンス』に与えた影響について考察することができたことは、望外の研究成果であった。 次年度(平成25年度)は、この成果を踏まえ、さらに『アーチー・ムーアの記憶』がダグラスの1845年の『ナラティヴ』に与えた影響を比較検討した。その結果、トマス・ジェファソンらに象徴される建国の理想と現実との矛盾を追及するレトリックが、デイヴィッド・ウォーカーからヒルドレス、ダグラスへ、さらにストー、チャイルドへと受け継がれる系譜を明らかにすることができた。 最終年度にあたる26年度は、ヒルドレスの研究により先送りされた、黒人女性の手になるスレイヴ・ナラティヴや小説、とりわけハリエット・ウィルソンの『うちの黒んぼ』(1859)を検証し、人種・ジェンダーによる差異に留意しつつも、それを超えた「反奴隷制小説」という文学ジャンルのなかで捉えると同時に、ストーの再評価を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は「初期反奴隷制文学」の時代の考察を行うために、デイヴィッド・ウォーカーやリディア・マリア・チャイルドによるプロテスト文学の考察、ダグラスを中心とした黒人によるスレイヴ・ナラティヴの特徴の考察を行ったが、その過程でアメリカ最初の反奴隷制小説と思われる、リチャード・ヒルドレスの『アーチー・ムーア』という小説の発見があった。これにより、ストーの『アンクル・トムの小屋』がアメリカにおける最初の反奴隷小説であるという前提の修正を余儀なくされた。 次年度(平成26年度)は、初年度の成果を踏まえ、ヒルドレスの『アーチー・ムーア』が黒人の手になるスレイヴ・ナラティヴ、とりわけダグラスの1845年の『ナラティヴ』に与えた影響を検証した。これにより、当初予定していた黒人女性のスレイヴ・ナラティヴや小説の研究が最終年度へ持越しとなったが、アメリカ建国の理想と現実との矛盾というレトリックが、ウォーカー、ヒルドレス、ダグラス、ストー、チャイルドへと受け継がれる系譜がある程度明らかにできたことは大きな成果だったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(平成26年度)は、黒人女性の手になるスレイヴ・ナラティヴや小説の特徴を考察し、黒人男性のスレイヴ・ナラティヴや白人作家の反奴隷制小説、とりわけストーの反奴隷制小説との差異に留意すると同時に、人種やジェンダーを超えた「反奴隷制文学」という文学ジャンルを総合的に構築できるかどうか検証する。 また、その中で、ストーが果たした役割を再評価すると同時に、この「反奴隷制文学」が「奴隷制」をめぐる言説であるにも関わらず、これが単なる一過性の現象ではなく、変容を繰り返しながらも、アメリカ文学の一つの重要な要素として受け継がれていることを明らかにする予定である。この際に、とりわけアメリカ文学の主流とされるマーク・トウェインの研究が重要となる。
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Research Products
(1 results)