2012 Fiscal Year Research-status Report
近代英国を中心とするエンブレムにおける宗教と科学に関する学際的研究
Project/Area Number |
24520314
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
植月 恵一郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (10213373)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 三郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (00130477)
出羽 尚 日本大学, 芸術学部, 研究員 (00434069)
松田 美作子 成城大学, 文芸学部, 准教授 (10407611)
伊藤 博明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70184679)
山本 真司 天理大学, 国際学部, 准教授 (80434976)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | エンブレム / ウィリアム・ブレイク / ホラポッロ / ヒエログリフ / リチャード・ラヴレイス / バラン / ピーター・ハイス / ジェイムズ・トムソン |
Research Abstract |
イギリス文学とエンブレムの関係を探るグループのうち、松田は、著書『シェイクスピアとエンブレム』(2012年3月)の、英国におけるエンブレムの受容では、人文主義的なエンブレムブック中心だった考察をさらに発展させ、宗教的なエンブレムの受容に力点をおいて調査した。特に、説教を聞く技術や記憶する記憶術関連について、資料収集など行った。山本は、シェイクスピアのエンブレムに関する日本や欧米の最新論文の研究資料調査を行った。今回は特に『ヴェニスの商人』に出てくる宝くじとエンブレムの関係を分析し、さらに、『リチャードII世』の庭師のエンブレム的場面の背景に見られる伝統的世界観と科学的思考のせめぎ合いを考察した。植月は、蝸牛のエンブレムとラブレイスの「蝸牛」の関係を明らかにした。聖書に登場する庭と蛇、古典の草叢の蛇の二つの伝統をルネサンスからロマン派まで追跡し、最終的にウィリアム・ブレイクの「病める薔薇」と虫の関係に凝縮されていることを明らかにした。 大陸のエンブレムの研究グループのうち、木村は、ユニウス『エンブレム集』の版画について研究を行った。挿絵の下絵素描は、パリの画家バランが52点を担当し、アントウェルペンの画家ハイスが、残りの6点を引き継いだ点を基本に研究した。伊藤は、ホラポッロの『ヒエログリフ集』の邦語訳を行いつつ、とりわけ、星辰・動植物・鉱物など自然界の事物を題材とする象徴的なヒエログリフと秘儀的な意味付けについて、典拠の探索、および同時代・後代への影響について研究を行った。 最後に、18~19世紀に出版された文学作品を主題とした版画(挿絵、及び独立した版画作品)に対するエンブレムの影響関係を図像学的に検討する出羽は、基礎的な作業として、特にジェイムズ・トムソンによる詩『四季』の版画の収集・調査と、その図像学的分析を行い、18世紀のイギリス詩とエンブレムの関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
松田は、英国17世紀前半は、清教徒革命へいたる激動の時代であり、この時期のエンブレムブックの受容と変容を追うことは、複雑で簡単なことではない。しかし、人文主義的エンブレムの図像が、宗教的エンブレムの図像に転用され、それに合わせた詩文が作られていたことを確認できた。山本は、まず、シェイクスピアのエンブレムに関する日本や欧米の最新論文の研究資料調査を行った。『ヴェニスの商人』に出てくる宝くじとエンブレムの関係を分析し、さらに、『リチャードII世』の庭師のエンブレム的場面の背景に見られる伝統的世界観と科学的思考の関係を明らかにできた。植月は、動物のエンブレムのうち、蝸牛と蛇を扱った。全体的な見取り図では、身近な昆虫と野に住む動物を一つずつ研究が完了し、身近な動物である羊や森に住む鹿については未完なので、一つの論文で一つの動物対象という観点からすれば達成度はほぼ半分と言えようか。しかし一方で、動物に関する資料収集は順調に進行しており、鹿については、シェイクスピアの『お気に召すまま』の分析で纏まりそうなので、今年度七割~八割程度達成できたと考えている。 木村は、小論ではあるが、かつて詳述されたことがない美術史的視点からの分析ができ、大きな成果を得た。伊藤は、ホラポッロの『ヒエログリフ集』の邦語訳については、訳註も含めてほぼ完成しており、それに基づいて考究を行っており、順調に研究は進んでいると言いうる。 出羽は、トムソンの『四季』の版画に関して、初版の1730年版から1830年頃までに出版された60余りの版に挿入された挿絵と、同じ時期に独立した作品として出版された版画作品を対象に収集を行い、その図像学的な分析によって、西洋絵画における伝統的な聖書、ならびに古代神話図像との関連を指摘し、論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
大陸のエンブレムを研究するグループのうち、木村は、今後、アントウェルペンの、プランタン博物館所蔵の版木についての、現地調査による実証的研究が必要であろう。一方で、この寓意図像集のフランス語版が、リヨン、パリにおいて与えた影響の分析を視野に入れて行きたいと思う。プランタン商会には、パリ支店が存在し、そこを拠点に、フランドルの版画家が活動したことが知られており、そうした環境への研究である。伊藤は、ニコラウス・タウレリウスの『自然的=倫理的エンブレム集』とヨアヒム・カメラリウスの『シュンボルムとエンブレム集』における、植物・昆虫・動物など生物のエンブレムと倫理的な意味付けについて、典拠の探索、および同時代・後代への影響についての研究を行う。 イギリス文学とエンブレムの関係を研究するグループのうち、植月は、伊藤のカメラリウスの収集と連携し、近代英国文学でどのように動物のエンブレムが取り込まれたのかを研究していく予定である。松田は、今年度の成果を基礎にしてさらに英国における宗教的エンブレムの図像の受容と意味の変容を明らかにすると同時に、引き続きフランシス・クォールズを中心とした資料の収集と分析を行い、論考をまとめる予定である。山本は、今後は、近代初期の宝くじの言説が、どのようにエンブレムに関連して大陸、とくにオランダからの影響を受けているか、さらにシェイクスピア作品を通して分析する。また、植物学や庭園学に関しても、エンブレムと印刷術の波及の観点から同様に考察し、学会発表、学会誌への論文投稿を行う。 出羽は、文学作品を主題とした版画について、エンブレムとの図像学的な影響関係を検討する。本年度検討したトムソンの『四季』の版画とリーパのエンブレム集『イコノロジーア』との関係に触れた先行研究を足がかりに、トムソンの他の作品を主題とした版画も研究対象としていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大陸のエンブレムを研究するグループのうち、木村は、今後、アントウェルペンの、プランタン博物館所蔵の版木についての、現地調査による実証的研究が必要であるし、寓意図像集のフランス語版が、リヨン、パリにおいて与えた影響の分析を視野に入れているので、ヨーロッパまでの旅費を使用する予定である。プランタン商会には、パリ支店が存在し、そこを拠点に、フランドルの版画家が活動したことが知られており、そうした環境への研究の文献複写代なども含む。伊藤は、タウレリウスの『自然的=倫理的エンブレム集』とカメラリウスの『シュンボルムとエンブレム集』における、植物・昆虫・動物など生物のエンブレムと倫理的な意味付けについて、典拠の探索、および同時代・後代への影響についての研究を行うため、物品費で書籍をの充実を図る。 イギリス文学とエンブレムの関係を研究するグループのうち、植月は、伊藤のカメラリウスの収集と連携し、近代英国文学でどのように動物のエンブレムが取り込まれたのかを研究していく文献収集に物品費を充てる。松田は、英国における宗教的エンブレムの図像の受容と意味の変容を明らかにし、引き続きフランシス・クォールズを中心とした資料の収集と分析に旅費、物品費を使用する。山本も、近代初期の宝くじの言説が、どのようにエンブレムに関連して大陸、とくにオランダからの影響を受けているか、さらにシェイクスピア作品を通して分析し、植物学や庭園学に関しても、エンブレムと印刷術の波及の観点から同様に考察するため、旅費、物品費を使用する。 出羽は、文学作品を主題とした版画について、エンブレムとの図像学的な影響関係を検討する。本年度検討したトムソンの『四季』の版画とリーパのエンブレム集『イコノロジーア』との関係に触れた先行研究を足がかりに、トムソンの他の作品を主題とした版画も研究対象としていくため旅費、物品費を使用する予定である。
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