2013 Fiscal Year Research-status Report
近代英国を中心とするエンブレムにおける宗教と科学に関する学際的研究
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24520314
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
植月 恵一郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (10213373)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 三郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (00130477)
出羽 尚 日本大学, 芸術学部, 研究員 (00434069)
松田 美作子 成城大学, 文芸学部, 准教授 (10407611)
伊藤 博明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70184679)
山本 真司 天理大学, 国際学部, 准教授 (80434976)
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Keywords | フランシス・ベイコン / ジェイムズ・トムソン / ドゥビュクール / シェイクスピア / 『ヴェニスの商人』 / 運命の女神 / 挿絵 / エンブレム |
Research Abstract |
近代初期イギリスのエンブレム研究グループのうち、松田は、『ヴェニスの商人』における宗教的、社会科学的な葛藤を、エンブレム的表象から探求した。その際、「利子」を表すusanceとinterestに注目し、資本主義の勃興と結びつけて、「『ヴェニスの商人におけるFortuneと fortune―usanceとinterestを巡って』にまとめた。山本は、同じく、『ヴェニスの商人』における“fortune”と“lottery”という言葉の劇的効果をめぐり、エンブレム文学の伝統だけでなく、イタリア商人の代表的運命観やギャンブル観など当時の社会的背景を視野に入れることにより、これらの概念がどのようにヴェニスという法の支配に基づく共和制国家を舞台とする芝居の複層的意味形成に貢献しているかを考察した。 十六世紀の大陸を中心とした研究グループでは、伊藤が、フランシス・ベイコンの『大革新』のフロンティスピースについて、大陸のエンブレム、とりわけインプレーサの伝統のイングランドにおける受容の一端を明らかにしつつ、ベイコン思想の分析を背景にその特色について指摘した。木村は、フランス革命期の版画家、ドゥビュクールが制作した寓意図像の作品の中で、1787-94年にかけての作品群に集中し、18世紀に刊行された、ションプレ、並びに、ド・プレツェルの図像事典との関連について分析を行った。 十八世紀イギリスの本文と挿絵の関係を研究する出羽は、文学作品の挿絵、及び文学を主題とした絵画に対するエンブレムの影響を考察するために、特にジェームズ・トムソンの詩作品を主題とした挿絵と絵画の考察を行った。その過程で、イギリスへの出張を行い、成果を紀要論文として発表した。植月は、スウィフトの馬のユートピア〈フウイヌム〉の背景にある馬への虐待の実態を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代初期イギリスのエンブレム研究グループのうち、松田は、近代初期英国を中心にして、視覚文化に占めるエンブレム的な表現の影響の大きさを追ってそれをある程度証明できたが、目下エンブレムの宗教的な文学への応用についてはまだ十分探求の余地があると思われる。山本は、これまでの研究達成度について基礎的な研究資料や文献の調査に予測したよりも時間がかかっているため進度はやや遅れていると言えるが、平成26年度は引き続き目的の研究調査を進めると同時にその成果を複数の研究論文の形で発表する予定である。植月は、動物表象のうち、人の周辺、家畜類、野生の四足動物、鳥などの分類でそれぞれ進めているが、今年度で当初の予定の四分の三程度は終えたことになる。 十六世紀の大陸のエンブレム研究グループのうち、伊藤は、大陸で刊行されたエンブレムブックとインプレーサブックについて、イングランドにおける受容の一端を考察するとともに、イエズス会における初期の受容に関する研究に着手している。木村は、従来、革命期の「自由」の寓意だけが詳細に論じられて来たこの分野の研究に、それは、本来、更に広範な分野における、寓意表現の一部であったことを明らかにすることができた。 十八世紀イギリスの作品の本文と挿絵を研究する出羽は、ジェイムズ・トムソンの詩作品を主題とした挿絵の分析をして、その表現の特徴を明らかにしたことによって、今後それらの書物の挿絵版画に対するエンブレムの影響を考察するうえでの基礎的な作業を概ね順調に遂行してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
近代初期イギリスのエンブレム研究を中心としたグループで、松田は、主にシェイクスピア作品を対象にエンブレム的な表現を追ってきたが、今後、宗教的な文学作品にも関心を広げ、エンブレムとそれらとの関連を追及するつもりである。山本は、ルネサンス期ヴェニスと英国における“lottery”の歴史と社会的意味を考察し、賭博師カルダーノと「運命の女神」表象の関係を分析した上で、“fortune”と“lottery”のエンブレム的政治学とその文化的社会的意味を明らかにしていく。植月は、最終年度に当たり、残りの動物表象のうち、狐と隼について研究を進める予定である。 十六世紀の大陸のエンブレムなどを研究するグループの方では、伊藤の場合、イエズス会におけるエンブレムブックの及ぼした影響について、イエズス会刊行のプロト・エンブレムブックと言うべき、1573年にローマで刊行された図解福音書 NON RECEDAT VOLVMEN… について詳しく考察する。木村は、「友愛」という概念における図像の展開を研究する予定である。ダヴィッド、プリュードン(画家)、更に、ボワゾ(彫刻家・版画家)の周辺に、本質的な作例を認めることができるが、鋭意、その調査と分析を行う予定である。 十八世紀イギリスの作品で本文と挿絵の研究を進める出羽は、これまでの研究の成果を基礎として、18-19世紀の書物の挿絵版画にエンブレムがどの様に影響しているのか考察を行う。図像学的にエンブレムが借用された過程を明らかにするのと同時に、当時のイギリス特有の意味が図像に付与されていたかも考察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外出張を計画していたが、校務など諸般の事情により、まとまった時間が取れなくなったため。 エンブレム関連の貴重書を購入予定等に切り替える。
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