2013 Fiscal Year Research-status Report
公的言説から文学テクストへ――アメリカ南部文学の自伝的作品と近代日本の私小説
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24520316
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
後藤 和彦 立教大学, 文学部, 教授 (10205594)
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Keywords | アメリカ南部文学 / 近代日本文学 / マーク・トウェイン / 島崎藤村 |
Research Abstract |
平成25年度はアメリカ南部文学より主としてマーク・トウェイン、日本近代文学より主として島崎藤村の文学作品を取り上げ考察の対象とした。それぞれの作品に見られる自伝的傾向に焦点をさだめ、それが具体的に作品テクストに定着される際に経る屈折度――すなわち、伝記的に確認されている彼らの経験と、それらを土台として作成された文学テクストとの相似と差異を析出、南北戦争以降のアメリカ南部と明治期日本における「近代」の到来とその定着に見られる歴史的相似と差異とにあとづけることの可能性をさぐった。 マーク・トウェインについては、元来ルポルタージュ的作品を得意とした作家が、なぜか25歳のときに巻き込まれた南北戦争期の体験に取材したテクストをほとんど残していないという事実に着目、戦争勃発直前の社会の混乱の様相を多くの歴史文書、他作家の小説、わずかに残されているトウェインの書簡などからたどり、代々の南部奴隷所有者の子孫であるというみずからの出自と、その家系への(特に父親への)心情的な、あるいは政治意識上の反発からくる逡巡が、この時期に関する彼の執筆姿勢や結果として産出された数少ないテクストの混迷や不透明さの基底にある可能性について検討した。 島崎藤村については、その研究に本格的に着手し、『破戒』とそれに続くより自伝的小説群とのあいだに存在している質的相違に着目、その相違については従来生成期の混乱状況にあった日本文壇の展開に要因を求める傾向が強いのだが、『破戒』の第一長編としての象徴的意義を再検討し、むしろその後の自伝的小説群との連続性を重視し、そこに伝記的題材を取捨選択する上での内的な基準が析出される可能性について考察した。 研究の効率とさらなる進展を期して、既存研究を渉猟し、その方法や視点などを学ぶとともに、国内外の学会、研究会などに積極的に参加し、同様の関心をもった研究者と意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度中に予定していたマーク・トウェインおよび島崎藤村にかかわる作業については、最終的には平成26年度早々に出版予定の2本の論文にその成果を結実させることができた。その過程にあって、日本英文学会北海道支部大会講演、日本マーク・トウェイン協会大会シンポジウム、日本英文学会関東支部秋期大会シンポジウム、ならびに日本アメリカ文学会東京支部シンポジウムにおいて段階をおって公表、同様の関心をもつ研究者たちとの意見交換の機会も得た。また年度中2度にわたって渡米し、コロンビア大学ならびにイエール大学に在籍するアメリカ文学や日本近代文学を専門とする研究者たちとの会見の機会を得、今後の研究の深化について教示と刺激を受けることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度においては南部文学からノーベル文学賞受賞作家であるウィリアム・フォークナーを主たる研究対象として掲げ、近代日本文学からは引き続き島崎藤村を中心とした論考の執筆ならびに刊行を念頭において、リサーチの範囲をさらに広げ、国内外の学会等の機会を利用しつつ、同様の関心をもつ内外の研究者との交流をはかりながら、最終目的達成のために努力する所存である。その際、これまでの研究の過程で着目してきた「文化の敗北」を契機とした文化的諸価値の再編成に対する、南部および近代日本それぞれにおける応答の質的差異への着目の有効性は一定程度確認できたので、さらに既存の知見を広く渉猟し、加えて新たに「系譜学的想像力」という観点から一連のプロセスを解析してみたいとも考えている。「系譜学的」とは、たとえば南部文学における「家」への注目とも、近代日本文学における公共性に対する「私」性ともかかわる用語として、それを実体的に定義すべく、関連資料などを渉猟し、考察を深めてゆくことを目指す。
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Research Products
(7 results)