2014 Fiscal Year Research-status Report
公的言説から文学テクストへ――アメリカ南部文学の自伝的作品と近代日本の私小説
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24520316
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
後藤 和彦 立教大学, 文学部, 教授 (10205594)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アメリカ南部文学 / 日本近代文学 / ウィリアム・フォークナー / 島崎藤村 / 系譜学的想像力 / 文化の敗北 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究第3年目にあたる平成26年度は、研究の大目標に従いつつ、昨年度末にたてた目標の深化拡大のための指針に沿うように、アメリカ南部文学からは特にウィリアム・フォークナー、日本近代文学からはやはり引き続き島崎藤村の文学作品を取り上げ、両者にほぼ等しく共有された自伝的傾向のうち、「家」ないし「父」に対する執着という共通の特徴を視座として設定し、これらへの執着のあり方が両者において見事に対照的であることを確認した。昨年度末に立てた指針において「系譜学的想像力」と名付けたものを基軸として両作家を比較することによって、アメリカ南部と日本近代、いずれも「文化敗北」による近代後発性によって特徴付けられる地域を代表する文学者のあいだに、みずからの足下に直結している「家」の系譜、あるいは公的な歴史に対して私的な歴史といってもよいと思うが、これを見る見方が、フォークナーにあってはより肯定的な偏向をもち、藤村にあっては否定的偏向がより優勢であることが見出され、また前者にあってはその実体がいかに矮小であっても、むしろそれを逆手にとって一挙に伝説化ないし神話化しようという意志の働きさえ検知できるのに対し、後者にあってはこの威圧的存在を脱神話化し(このプロセスはフォークナーにも等しく見られるのであるが)、いわば等身大となった「歴史」の湛える悲しみのなかにみずからも参入し、それを我が物としようという意志がまさって見られることもわかった。このことは、翻って、両文化圏における「文化敗北」受容の質的差異を反映しているのだろうか、ふたたびこの当初に立てた問いへ、新たに総合的に取り組む必要があることを突き止めた1年であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究の大目標であるアメリカ南部文学と日本近代文学における自伝的傾向の類似性と差異について、両文学を代表する作家の作品にもとづきつつ検討を行い、この2年間の研究を通じて昨年度末逢着した問題点をも踏まえ、その結果を論文として発表することができた。また所属学会の年次大会における「文学史」シンポジウムにパネルとして登壇、日本におけるアメリカ文学史という視点から、本研究のキーワードのひとつとなった「系譜的想像力」の概念を敷衍することによって、研究成果の一端を他分野の研究者に披露する機会を得ることができた。またこのシンポジウムが機縁となって、27年度には別学会の年次大会で講演に招聘されたので、この機会を利用し、本研究の成果をより本格的に公にする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請研究の最終年度とあたる27年度は、これまでの研究実績を踏まえたところを、与えられた学会における講演あるいはシンポジウムの場を利用して公にするとともに、今年度はアメリカ南部文学からフラナリー・オコナー、ウィリアム・スタイロンといういずれもフォークナーの次世代にあたる作家達の文学作品を新たに対象としたい。同時に最近「戦後」ならびに「敗北」をキーワードとした日本文化(史)研究が複数公刊されており、これら新しく刺激的な視点も吟味しつつ導入し、「私」語り、「系譜的想像力」、文学における対歴史観の日本的特徴の観点から、夏目漱石ならびに島崎藤村を始め、これまで取り上げなかった作家についても積極的に取り上げたいと考えている。その成果は今夏に新しい申請研究のテーマとなるようまとめ上げたいと思う。
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Research Products
(10 results)