2015 Fiscal Year Annual Research Report
公的言説から文学テクストへ――アメリカ南部文学の自伝的作品と近代日本の私小説
Project/Area Number |
24520316
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
後藤 和彦 立教大学, 文学部, 教授 (10205594)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アメリカ南部文学 / 日本近代文学 / ナショナル・ナラティヴ / プライヴェート・ナラティヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ南部文学に顕著な傾向を「釈明の衝動」という語で表現し、自伝をその優勢な形式として挙げたのはFred HobsonのTell About the South: The Southern Rage to Explain(1983)であった。本研究はホブソンの成果を踏まえ、こうした文学を産出してきた南部社会に働く力学をその文化的風土の歴史的特徴へと辿りつつ、特に「私」の来し方を説き語る文学が、その「私」の所属する社会にまつわる公的な言説から直接由来している点に着目し、この南部文学における「公・私」の連結という特徴をより前景化するため、むしろ両者の分裂、文学言説の私化、公的領域からの撤退を特徴とする近代日本に支配的な文学形式「私小説」との比較考察を行なった。 この際、作業の段階的目標として――1.ホブソンの南部社会に対する「弁明派」および「批判派」の二分法のフォーミュラの有効性の再確認 2.テクスト内に言及される歴史的状況を析出、そこから文学テクストに至る経緯の理解と記述 3.歴史的状況から、それに対する直接的応答としてのナショナル・ナラティヴへ、またそこから文学テクスト(プライヴェート・ナラティヴないしリテラリー・ナラティヴ)へ、すなわち公的ディスクールから私的ディスクールへの連続性の確認の三段階を措定、これにそって、具体的には、アメリカ南部から19世紀中葉から末期にかけて活躍したマーク・トウェイン、20世紀モダニズム期のウィリアム・フォークナー、20世紀中葉以降の女性作家群(ユードラ・ウェルティ、カーソン・マッカラーズ、フラナリー・オコナー)を、日本近代文学からは島崎藤村、大江健三郎、中上健次、村上春樹を取り上げ考察を行い、研究成果を順次、講演、研究論文等の形式で発表した(日本戦後文学者3名について英語論文をほぼ完成、編者との交渉を開始する段階である)。
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Research Products
(3 results)