2012 Fiscal Year Research-status Report
ポストモダニズム以降の文化研究―文化翻訳の実践とベトナム系アメリカ文化
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24520317
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
麻生 享志 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (80286434)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流、アメリカ合衆国、フランス / 国際情報交換、アメリカ合衆国、フランス / ポストモダニズム / 文化翻訳 / ヴェトナム系移民 / アメリカ文学 |
Research Abstract |
平成24年度はアメリカ・ベトナム系コミュニティーの実地調査を夏と冬の二度にわたり実施した。とくにロサンゼルス近郊サンタアナで積極的な活動を展開する Vietnamese Amercian Arts & Letters Association の協力を得て、現地で活躍するローカル・アーティストと面会する機会をもった。彼らのプレゼンテーション、また、ゼミ形式の討議等を通じて多くの情報を得ることができた。また、University of Southern California で教鞭をとる Viet Thanh Nguyen、University of California, Riverside の Lan Doung らヴェトナム系アメリカ人研究者と意見交換を行った。 これらの成果は、1)「GB・トラン『ヴェトナメリカ』における歴史の再構築とトランスコミュナリティー」日本アメリカ文学会東京支部(2013年 1月26日 於・慶應義塾大学); 2) “Assimilation, Simulation, and ‘Assimulation’: Queer Passivity in the Work of Pipo Nguyen-Duy,” Race and Ethnicity in American Literature and Culture: A Reconsideration (名古屋大学大学院国際言語文化研究科主催国際シンポジウム、2013年3月16日、於・名古屋大学)において公表した。1) においては、ヴェトナム系アメリカ移民2世 GB Tran によるグラフィックノベルを題材に、2)においては1.5世代移民フォト・アーティスト Pipo Nguyen-Duy の作品を題材に、ヨーロッパ系アメリカ文化とヴェトナム系文化の接触と融合の(不)可能性について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、アメリカ合衆国におけるヴェトナム系アーティスト・研究者との情報交換を踏まえ、資料収集に重点を置いた研究を計画し、その成果を学会において公開することを目的とした。これらの計画は予定通りに達成することができた。とくに現地調査では、現地アーティスト・研究者との意見交換を通じ、当初想定していた以上の成果を挙げることができた。その結果、平成25年度に予定していた国際シンポジウムでの研究発表を前倒しで行うことができた。 研究内容については、当初予定していたヴェトナム系アメリカ小説を中心とする文化翻訳的テーマの研究に加え、フォトアートやグラフィックノベルといった視覚的なインパクトをもつ芸術作品の分析を実施したことが、本研究の幅を広げる結果につながった。 また、現地アーティストや研究者との意見交換を通じ、移民にとってヴェトナム本国がもつ意義や彼らが抱くヴェトナムへの複雑な感情を理解することになった。とくに、脱越の経験をもつ1世移民とアメリカ生まれの2世移民に挟まれた中間世代である1.5世代移民が、祖国ヴェトナムに対して行う両義的な感情表現をより適切に理解できたことは、今後の研究の展開に大きな意味をもつ。 ところで、大学・研究機関、あるいは美術館・博物館といった公共施設ばかりでなく、ロサンゼルス市などの地方自治体が移民の芸術・研究活動を手厚くサポートする環境を整えるアメリカ西海岸に対して、東海岸ではヴェトナム系の存在がまだ十分に受け入れられているとはいえない。東海岸におけるヴェトナム系の受け入れが進めば、彼らの文化は今後さらに発展していくことだろう。 総じて、平成24年度は、当初の計画以上の現地調査・資料収集を行うことが出来た。その結果、当初予定していた国内学会での研究発表に加え、国際シンポジウムでも研究成果を公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、アメリカ合衆国においてヴェトナム系移民アーティスト、及び研究者の活動を調査し、資料収集に努めた。その結果、当初の予定以上の成果が挙げられた。よって、25年度については、当初予定していたアメリカでの再調査に代えて、アメリカに次いでヴェトナム系が数多く移民したフランスでの現地調査を実施し、アメリカへの移民とフランスへの移民の比較研究の基盤をつくりたい。 例えば、ヴェトナム系アメリカ移民2世の Aimee Phan は、アメリカとフランスにそれぞれ別離することになった移民家族のその後の人生を対象的に描く小説 The Reeducation of Cherry Truong を2012年に発表している。また、1.5 世代小説家 Monique Truong は The Book of Salt (2004) において、フランスを舞台にヴェトナム系移民の生活を描いた。アメリカへの移民にとっても、フランスへと移民したかつての同胞のその後は、文化・文学的に重要なテーマとなることを示す例である。 また、ヴェトナム系フランス移民の映画監督 Tran Anh Hung は、村上春樹の小説『ノルウェーの森』の映画化(2010)に取り組んでおり、ヴェトナム系フランス文化と日本文学との間に文化翻訳的な接点を構築した。 これらの例は、文化翻訳、あるいは複数文化の積極的融合の実体を分析・解明する上で重要である。フランスにおけるヴェトナム系移民の芸術・研究活動を調査することは、本研究の今後の展開にとって意義深い。 一方、イギリス・大英図書館には、イギリスに移住したヴェトナム系移民の声を記録する資料が所蔵されている。イギリスへのヴェトナム系移民の数は決して多くないが、バーミンガムやバースなどの地方都市には彼らのコミュニティーが築かれつつある。よって、イギリスにおける現地調査も併せて実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度においては、次の4項目を中心に予算を執行する。1)フランス・イギリスでの現地・資料調査、2)日本英文学会全国大会、及びアジア系アメリカ文学研究会年次フォーラム出席、3)ヴェトナム系文化・文学関連資料の購入、4)コンピューター関連消耗品の購入。詳細は以下の通り。 1)ヨーロッパでの現地調査・資料収集については、まずフランスで現地ヴェトナム系アーティストや研究者との意見交換の場をもうける。加えて、植民地時代に遡るベトナム関連資料が多く収集されているフランス国立図書館において、移民関連の資料調査にあたる。 また、イギリス大英図書館に所蔵されるヴェトナム系移民関連資料は、ヴェトナム戦争後の移民の声を伝える貴重なものであり、調査を行うこととする。また、バーミンガム、バースといった地方都市に点在するヴェトナム系コミュニティーの状況を現地にて確認する。 2)春に予定されている日本英文学会全国大会については、広く英米文学に関する発表・シンポジウム等が催される。また、秋に予定されているアジア系アメリカ文学研究会の年次フォーラムには、アジア系アメリカ文学研究者が一同に集う。彼らとの意見交換を通じ、今後の研究の方向性を確認する。 3)アメリカ系に加え、ヨーロッパ系のヴェトナム移民文化・文学関連の資料を購入する。とくに現地では、日本国内では手に入りにくい美術関連資料が出回っていることから、こうした資料を中心に収集をすすめる。 4)資料整理等に必要なコンピューター関連消耗品を購入する。インク・カートリッジのほか、USB等のメモリー装置を適宜購入する予定である。
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Research Products
(2 results)