2014 Fiscal Year Research-status Report
ポストモダニズム以降の文化研究―文化翻訳の実践とベトナム系アメリカ文化
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24520317
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
麻生 享志 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (80286434)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / アジア系アメリカ文化・文学 / ポストモダニズム / ヴェトナム系アメリカ文化 / トランスコミュナリティ / トランスパシフィック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで研究を重ねてきた21世紀型の新たな共同体形成を目指す「トランスコミュナリティ」という概念に加え、Yunte Hwang が唱える「太平洋横断的想像力」、いわゆる「トランスパシフィック」という概念もキーワードに、より多角的な研究を心がけた。その結果、Aimee Phan や Trinh Mai といった第2世代を含むのヴェトナム系作家・芸術家を重点的に研究すると同時に、アジア系文学というより大きな枠組みの中でヴェトナム系文化を捉える方向を目指した。 具体的には、Phan と日系作家の Ruth Ozeki らを比較・分析した研究発表「異文化空間としてのトランスパシフィック」をアジア系アメリカ文学研究会(2014年 7月12日 於・早稲田大学)にて行った。また、日本アメリカ文学会東京支部では、ヴェトナム系移民文化と1970年代初頭のアジア系アメリカ文化運動の関係を大衆音楽を例に分析した(「大衆音楽から見るアジア系アメリカ運動とヴェトナム戦争」2015年 1月24日 於・慶應義塾大学)。 一方、名古屋大学での国際シンポジウム("American Literature and Culture at the Crossroads of Race and Gender" 2015年3月23日)では、ヴェトナム戦争がアジア系アメリカ文化運動に与えた影響について、英文にて口頭発表 “Pop Music and the Asian American Movement” を行った。 加えて、本研究代表者が翻訳を手がけているヴェトナム系アメリカ人小説家 Lan Cao が来日した際には、早稲田大学での講演 “Crossroads of Culture and International Law” を企画・運営した(2014年12月16日)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヴェトナム系アメリカ文化・文学の展開を、世代を超えて、あるいはアジア系アメリカ文化・文学全般との関係から論じるよりマクロな視点を構築した。 その具体的成果としては、本研究代表者も編者の一人として企画・編集に取り組んだ研究論文集『憑依する過去』(小林富久子監修、金星堂、2014年)の出版がある。自らも「トラウマを越えて GB・トラン『ヴェトナメリカ』における歴史の再構築とトランスコミュナリティ」(pp. 333-46)を寄稿し、ヴェトナム系第2世代グラフィックアーティスト GB・トランの作品について論じた。 また、「研究概要の実績」でも挙げたとおり、3回の学会発表(うち1回は国際シンポジウムにおける英文発表)を行い、ヴェトナム系アメリカ文化研究の発展に貢献した。 加えて、ヴェトナム系アメリカ小説家 Lan Cao の新作 "The Lotus and the Storm" の翻訳権を取得し、その翻訳作業に取りかかっている。2014 年8月にカリフォルニア州ロサンゼルス地区を中心に実施した現地資料調査の際にLan Cao 本人と面会し、この作品の持つ意義や意味を確認したのち、翻訳権の取得を決定した。海外の版元からの翻訳権取得に時間を要したため、 当初見込みよりも若干作業が遅れているが、2015年度中には翻訳を完了、2016年度には出版する予定である。すでに日本側の出版社も内定している。 2014年8月の現地調査では、1970年代後半から1980年代を通じて南カリフォルニアで形成・展開したヴェトナム系共同体の政治・文化に関する資料を閲覧することができた。今後の研究の展開に欠かせない重要な調査だった。2015年度には、こうした資料から読み取れるヴェトナム系共同体発展の経緯を論文等の成果としてまとめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度においては、以下の3点を中心に研究を遂行し、本研究の終了を目指したい。 1) Lan Cao, "The Lotus and the Storm" の翻訳・出版。すでに2014年末にアメリカ Viking 社より本書の翻訳権を取得し、翻訳作業に取りかかっている。日本語版出版社も内定している。Cao については、デビュー作 "Monkey Bridge" を翻訳・出版した経緯もあり、本研究代表者のライフワークとして、今後も作品が出れば確実に翻訳に携わっていく予定である。 2)過去3年間の研究成果をアメリカ学会第49回年次大会にて、部会D『ベトナム戦争終結後40年 米越関係の現在』として研究発表する予定である(予・2015年6月7日 於・国際基督教大学)。本部会では、本研究代表者が発案・企画を行っていることから、関連他分野の研究者の協力を得て、ヴェトナム系アメリカ文化、社会、政治・経済をより多角的な視点から捉えていく予定である。本研究代表者は、「1.5世代から2世代へ ベトナム系アメリカ文化の現在」という表題の下、Lan Cao や Monique Truong ら第1世代からAimee Phan や Bich Minh Nguyen、GB・Tran ら第2世代へ軸足が移りつつあるヴェトナム系文化の現在と予想されうる今後の展開を論じる予定である。 3)昨年度口頭にて研究発表を行った「トランスパシフィック」関連の論文をまとめ、学会誌等に投稿・発表する予定である。 4)9月開催のアジア系アメリカ文学研究会フォーラム(予・2015年9月19日 於・早稲田大学)では、「環境」をテーマにアジア系文学を論じるシンポジウムを企画し、そのモデレーター務める予定である。
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Causes of Carryover |
平成25年度、及び26年度に行った海外出張が、他業務の出張と時期・地域とも重複したことから、調査期間を短縮せざるを得なかった。また、現地までの交通費負担が他経費により一部支給されたため、当初見積もりよりも少なくなった。以上の理由から未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1)2015年6月7日に国際基督教大学で開催するアメリカ学会年次大会にて、本研究代表者が企画・運営する部会D「ベトナム戦争終結40年」では、本研究の一環として関連分野の講師を招聘することから、本研究費より必要経費の一部を支出する予定。 2)海外図書館所蔵の資料数点について更なる調査が必要なことから、他経費と組み合わせるなどして再度現地調査を行う予定。 3)関連図書の購入に充当する予定。
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