2012 Fiscal Year Research-status Report
トロロプの旅行記における政治思想とリアリズムの研究
Project/Area Number |
24520321
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
委文 光太郎 麻布大学, 獣医学部, 講師 (70367241)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トロロプ / 『北アメリカ』 / 旅行記 |
Research Abstract |
本研究の目的は、鋭い観察眼で上流階級の有様をつぶさに描いたアントニー・トロロプの数ある作品の中でも、これまで研究対象とされることの少なかった4つの旅行記に焦点をあてて、その全体像を提示することにある。 研究の1年目にあたる本年は、トロロプの2作目となる旅行記『北アメリカ』(1862)を取り上げて、英国人である彼が当時のアメリカ人をどのように分析し評価しているのかを主に考察した。その結果、アメリカ人の性格や行動などについて言及する際、それが否定的な意見であっても、直後に必ず肯定的な一面を書き加えることなどによって、彼がアメリカ人の反感を最大限抑え込もうと意図していたことがわかった。これは、それ以前に書かれていたトロロプの母フランセスの『内側から見たアメリカ人の習俗』(1832)や、ディケンズの『アメリカ紀行』(1842)の描き方とは明らかに一線を画すものである。そこで、なぜ彼はアメリカ人の反感を恐れたのかという点に着目して、本旅行記を改めて詳細に分析したところ、トロロプは、文学作品の市場として当初予想していた以上にアメリカが魅力的な地であることを肌で感じ取っていたことが判明した。彼のアメリカ人観は、研究者から「誠実な評価」の結果であると指摘されることがあるが、必ずしもそれだけではなく、自分の作品を多くのアメリカの人々に読んでもらいたいという、著者としてある種当然とも言える思惑が、多少なりとも存在していたのである。この視点は、トロロプがアメリカという土地やその国民を当時どのように見ていたのかを考える上で欠かせないものだと言える。なお、この研究成果は現在、論文としてまとめて投稿先を探している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今回取り上げた『北アメリカ』(1862)という作品が、単なる旅行記にとどまらず、当時行われていた南北戦争の状況分析や、アメリカ合衆国憲法、裁判所や選挙制度などに関する専門的な記述が数多くあり、予想以上に作品分析に手間取ってしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、『北アメリカ』(1862)に関する論文投稿を完了させる。その上で、次年度の2013年度は『西インド諸島とカリブ海沿岸地域』(1859)、2014年度は『オーストラリアとニュージーランド』(1873)、そして最終年度となる2015年度は『南アフリカ』(1878)をそれぞれ取り上げて分析し、最後に、4つの旅行記全体に通底するトロロプの人種観や政治思想を考察する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の2年目にあたる次年度は、トロロプが初めて書いた旅行記『西インド諸島とカリブ海沿岸地域』(1859)を取り上げて、作品分析を行う。なお、この旅行記の作業日誌がオックスフォード大学のボドリアン図書館にあり、また、この旅行記に関する記述が複数見られるトロロプの『自伝』(1883)の自筆原稿が、ロンドンの大英図書館に所蔵されているので、現地に直接赴いて資料を閲覧し、作品分析を行う上での重要な資料とする。
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