2014 Fiscal Year Research-status Report
トロロプの旅行記における政治思想とリアリズムの研究
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24520321
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
委文 光太郎 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (70367241)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トロロプ / 『西インド諸島とカリブ海沿岸地域』 / 『北アメリカ』 / 旅行記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、鋭い観察眼で上流階級の有様をつぶさに描いたアントニー・トロロプの数ある作品の中でも、これまで研究対象とされることの少なかった4つの旅行記に焦点をあてて、その全体像を提示することにある。 研究の3年目にあたる本年度は、トロロプの初めての旅行記『西インド諸島とカリブ海沿岸地域』(1859)を取り上げて、「黒人の労働」という視点から作品分析を行った。その結果、トロロプは各地域の黒人の労働状況を詳しく観察した上で、興味深いことに、労働によってもたらされた知性が、傲慢さという負の側面を黒人の中に芽生えさせていることを指摘していたことが明らかとなった。そして、こうした黒人の姿は、彼の2作目の旅行記である『北アメリカ』(1862)の中で描かれていた、多少の報酬と威厳を手にした代わりにかつての愛情の深さや他人を信頼する心を失ってしまった米国のアイルランド移民に重ね合わせることができると判明した。さらに『北アメリカ』の最終章には、トロロプが帰国途中に燃料補給のため寄港したアイルランドの港で、多くの物乞いに取り囲まれる様子が挿入されているのだが、労働による負の影響を一切受けていないその物乞いたちの姿は、西インド諸島の黒人やアイルランド移民とはまさに対極にあることから、このアイルランドの物乞いたちは、『北アメリカ』と『西インド諸島とカリブ海沿岸地域』で指摘された、労働に潜む負の側面を想起させる象徴的な存在として機能していることが明らかとなった。なおこの研究成果は、トロロプの人種観を考察する上で欠かせないものであると考えられるため、現在、論文としてまとめて投稿先を探している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予想以上に作品分析に手間取ってしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2015年度は、本年度に終了予定であったトロロプの旅行記『オーストラリアとニュージーランド』(1873)に関する論文を書き上げた上で、もうひとつの旅行記『南アフリカ』(1878)の自筆原稿ならびに取材ノートの閲覧・分析を行い、4つの旅行記全体に通底するトロロプの人種観や政治思想を考察する予定である。
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Causes of Carryover |
昨今の急激な為替変動により、申請書作成時の想定よりも旅費がかさんだ年度が発生した。そのため、前倒しの支払いを請求したことがあり、結果的に次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、トロロプの旅行記『南アフリカ』の自筆原稿が所蔵されているロサンゼルス近郊のハンティントン図書館と、『南アフリカ』の自筆の取材ノートが所蔵されているプリンストン大学の図書館を訪問する予定である。
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