2013 Fiscal Year Research-status Report
商業化されたセクシュアリティー十九世紀初期イギリス女性詩人たちと古典文学の受容
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24520324
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Research Institution | Nagoya Keizai University |
Principal Investigator |
川津 雅江 名古屋経済大学, 法学部, 教授 (30278387)
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Keywords | 英文学 / 西洋古典 / セクシュアリティ / ジェンダー |
Research Abstract |
平成25年度は、前年度に収集した基本的資料・文献・刊行物をよりいっそう充実させるとともに、収集した資料の精読・分析・解析に取り組み、それらをデータベース化して検索可能なかたちに変えて、研究が容易になるようにした。また研究成果としては、以下のように講演を行い、論文三点と書評一点を公表した。 (1)名古屋大学英文学会第52回大会における講演で、18世紀から19世紀四半世紀までのOvidの “Sappho to Phaon”に基づくSapphoの投身神話の言説と絵画的表象の変容を自殺観・感受性観・セクシュアリティ観の観点から分析した。これにより、本研究の中心をなすLetitia Elizabeth LandonとFelicia Hemansの作品における女性の愛と死と詩的名声のテーマの歴史的位置づけが明らかになった。(2)名古屋大学英文学会誌に、上記分析結果の知見を発展させ、修正・加筆した論文を投稿し、査読を経て掲載された。(3)イギリス女性史研究会Newsletterに掲載した論文では、ロマン主義時代の女性同士の愛について語るとき、セクシュアルが意味することについての問題を提起した。(4) 紀要に掲載した論文では、19世紀はじめのAnne Listerの日記を読み解き、彼女が学んだOvid, Martial, Juvenalなどの西洋古典文学におけるセクシュアリティの言説が、女性同性愛者の自己像の形成に対抗的に働いたことを明らかにした。(5)日本英文学会誌英文号に、ロマン主義時代のジェンダー・セクシュアリティ観を知る規範的な作家の一人であるMary Wollstonecraftに関する19世紀から現代までの批評論文集の書評を投稿し、査読を経て掲載された。 これらの成果により、本研究の最終の26年度における研究の総仕上げの礎を築くことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の計画で未完であった、西洋古典文学の英訳と関わりがあると推定されるBenthamの “Eaasy on ‘Paederasty’”(1785)とShelleyの “Discourse on the Manner of the Ancient Greeks Relative to the Subject of Love”の精読・分析を本年度無事終了し、古典文学に潜んでいる恋愛やセクシュアリティ観について検証することができた。また、19世紀初期の女性詩人の作品における脱性化の動きを18世紀以来のOvidのSapphoの受容史のコンテクストの中で捉えなおすことができ、本研究の独創性の一環を示すことができた。研究成果の発表・社会的還元の点でも、当初の研究計画におおむね沿うものであった。以上の点から、研究が順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる平成26年度は、研究の総括として、前年度までの研究成果を踏まえ、19世紀初期における西洋古典文学の英訳版の言説の社会的文化的影響力の全貌と、女性作家たちによる女性のセクシュアリティの商業化の過程とのつながりを明らかにする。具体的には、研究成果の国際的評価を得るために、海外の国際学会Wordsworth Summer Conferenceでの発表や主要学会誌への英文の論文の投稿を計画している。学会における意見などを踏まえて、これまでの研究成果の内容を再吟味し、修正や加筆を施した上で、書籍のかたちで刊行するための準備を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度使用計画として挙げていた英文論文校閲費を使用しなかったことに加え、国内旅費が計画より少ない費用ですんだため。 次年度に使用する予定の研究費としては、前年度残金の45,520円と直接経費900,000円の合計945,520円である。平成26年度は研究費全体のうち、物品費(書籍、インクなど消耗品)に115, 520円、旅費(イギリス・グラスミアでの学会のための渡航費・宿泊費として)に550,000円、人件費・謝金(HP更新費と英文論文校閲費として)に80,000円、その他(学会参加費、論文印刷費、複写費、相互貸借文献複写費および送料として)に200,000を使用する計画である。
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