2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520325
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
古木 圭子 京都学園大学, 経済学部, 教授 (80259738)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リアリズム演劇 / 19世紀アメリカ演劇 / James. A. Herne / Tennessee Williams |
Research Abstract |
平成24年度は、19世紀アメリカ演劇、特にアメリカ演劇におけるリアリズムの創始者としてのJames A Herne (1839-1901)の戯曲の分析を行った。本年度の研究の集大成として、平成25年3月に、英米文化学会第140回例会において「James A Herneの初期戯曲にみるアメリカン・リアリズムの萌芽」というタイトルで研究発表を行った。以下はその概要である。 Herneのリアリズムの手法は、しばしばHenrik Ibsen (1828-1906) の戯曲の模倣であるとされるが、彼の初期の戯曲Hearts of Oak (1879) には既にリアリズムの萌芽がみられることは興味深い。Hearts of Oakは、David Belasco(1853-1931) との共作であり、本作が執筆された1879年には、Herneは俳優としての活動が中心であり、方のBelascoも舞台マネージャーとして活躍していた。Belascoは、アメリカ演劇に独自のリアリズムを持ち込んだことでも知られているが、彼の「リアリズム」志向は、細部や全体的な舞台「効果」へのこだわりが主であって、Herneの作品に見られるような性格描写におけるリアリティというものは希薄である。そこで本発表では、Belascoの関与の範囲についても言及しつつ、Herneの初期の戯曲を中心に、Herneが一貫してアメリカ演劇にリアリズムを持ち込むことに関わったことを論証した。 また本年度には、Herneのアメリカ演劇におけるリアリズム創成の功績が、20世紀を代表するアメリカ劇作家Tennessee WilliamsやArthur Millerにも影響を与えた面があるとの観点から、Tennessee Williams戯曲に関する研究も行い、その成果を研究論文、共著として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目的は、19世紀アメリカにおけるリアリズムの研究である。平成24年度においては、アメリカ演劇におけるリアリストとしてのJames A. Herneの功績、そして彼とDavid Belascoとの共作関係について調査し、その研究成果を発表する機会も得た。 平成24年8月のニューヨークへの出張では、ニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ分館 (New York Public Library for Performing Arts) において、HerneのHap-hazard (1879初演)および上演メモや劇評などを収集することができた。Hap-hazard は、Watts Philips のCamilla’s Husband の翻案化戯曲であり、基本的にはメロドラマ的喜劇であるが、主人公の描写やセリフには、後のHearneのリアリズム戯曲に通じる洞察力がすでに見られ、本研究において大きな収穫を得た。 同図書館においてはさらに、1996年New JerseyのNew Brunswick で上演されたGregory S. Hurst演出によるTennessee WilliamsのThe Glass Menagerie(1945年初演)のビデオ観賞をすることができた。通常は、本戯曲のリリシズムや主人公の一人であるLauraの悲哀を強調する演出が多いのだが、本ヴァージョンでは家族間の擦れ違いをコミカルに描き、斬新な演出であった。今回、過去の上演をビデオで鑑賞することにより、Herneから Williamsへと至るアメリカリアリズム演劇の伝統を再確認した。 以上に述べたニューヨークでの調査研究の成果が、本年度における学会研究発表、研究論文へと結びつき、19世紀から20世紀アメリカ演劇への橋渡しとしてのリアリズム演劇の在り方を探求することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、アメリカ小説におけるリアリズムの創始者とされるHamlin Garland (1860-1940) が、James A. Herneに与えた影響について調査を進めたい。この調査により19世紀アメリカにおける小説と戯曲の接点を探ることもできると考える。 さらに、Herneの戯曲が19世紀アメリカにおいて斬新で実験的な視点を持ち、それが20世紀のアメリカ演劇に影響を与えている可能性についても調査をし、20世紀のアメリカ劇作家Eugene O’Neill (1888-1953), Tennessee Williams (1911-1983), Arthur Miller (1914-2005)が開拓した実験的手法への道程をHerneが既に示していたことを明らかにする。 Herneが劇作活動に従事していた時期には、南北戦争後を境として、アメリカ演劇の新時代が位置づけられていた一方、依然としてメロドラマ的傾向を持つ戯曲が多かった。同時期の劇作家Bronson Howard(1842 -1908)の南北戦争ドラマShenandoah(1889) は、歴史とメロドラマの融合という点において観客の興味を惹きつけた。他方、HerneのThe Reverent Griffith Davenport (1899年) は、南北戦争という歴史的事象が個人に与える心理的葛藤を主に描いた作品であるが、Herne戯曲の研究において言及されることは少ない。しかし南北戦争という国家的テーマと個人の心理葛藤を結びつけたHerneの意図は革新的であり、南北戦争というアメリカ史を揺るがした事象と、それを映し出す鏡、国民への警告としての目的を持つ演劇の役割をHerneが果たそうとしていたと思われるのである。そのような観点からアメリカ演劇における南北戦争の影響について、今後考察を進めてゆきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Herneがリアリストへと成長する過程において、Hamlin Garlandの影響は多大であった。Garlandは、アメリカ演劇界にIbsenを紹介した功績がある。1889年秋、ボストンでのA Doll's Houseの上演をガーランドは観ており、これによって彼のIbsenの戯曲への傾倒が始まった。そして、HerneがIbsenのA Doll's Houseの上演を初めて観たのは、夫人キャサリンの記述によると、1896年のことである。ゆえに、多くの劇作家が指摘するように、もしHerneがIbsenの影響を受けたとすれば、Garlandを通しての間接的影響だったと考えられるので、その点をさらなる調査によって明らかにしたい。 そこで次年度は、ニューヨーク公立図書館などにおいて、Herne夫妻とGarlandの書簡、覚書、Herneの戯曲が上演された際の写真などの資料を収集し、文人と演劇に関わる者としての三者の交流の軌跡を踏まえ、それによって互いの影響関係を調査する計画をしている。 自身の小説においても、アメリカの「地方色」を強く打ち出すことを重要視したGarlandは、その流れをくむ演劇がアメリカにも生まれることを望んでいた。Herneの描写する女性像、特にリアリズム演劇の先駆的作品とされるMargaret Flemingの主人公には、健全な生活と勤勉を美徳とするピューリタン的思想が顕著であり、そこにニューイングランドの「地方色」を打ち出したアメリカのリアリズム演劇の萌芽がみられ、それは20世紀アメリカ演劇に受け継がれてゆく要素である。 以上のように、文学的刺激を与えあったリアリズム作家両者の影響関係について調べることは、アメリカ演劇のみならず、アメリカ文学史自体をも見直すことに繋がると考えられる。
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Research Products
(4 results)