2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520325
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
古木 圭子 京都学園大学, 経済学部, 教授 (80259738)
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Keywords | リアリズム演劇 / 19世紀アメリカ演劇 / James A. Herne |
Research Abstract |
平成25年度は、アメリカのリアリズム演劇におけるJames A. Herneの功績について研究を進め、研究論文を学会誌『英米文化』に発表した。以下はその概要である。 メロドラマの範疇に位置づけられてきたHerneの初期戯曲Hearts of Oakは、リアリズム的要素を内包している。イプセンの影響が色濃くみられると指摘されたMargaret Flemingに描かれていた家族崩壊の影、結婚の否定的側面等の要素が、既にこの戯曲に顕著にみられる。ゆえに本作は、Margaret Flemingで達成したアメリカン・リアリズムを導き出す作品として位置付けられるべきである。 さらに、19世紀アメリカ演劇界においてHerneが確立したリアリズム演劇が、20世紀アメリカ演劇に与えた影響について平成24年度は調査を行ったが、今年度はその視点をさらに21世紀アメリカ演劇へと移行し、日系アメリカ人劇作家Chiori Miyagawaの戯曲に関する研究発表を行った。MiyagawaのThousand Years Waiting (2006年初演) においては、『更級日記』の作者が『源氏物語』を読む行為と、ニューヨークの現代女性が『更級日記』を読む行為が同時進行し、物語としての書物が介在することによって、日常の人間関係における時間や空間が取り除かれる。人種、ジェンダーにとらわれないキャスティングも、本作の上演においては「境界」を超える試みの一つとして取り入れられている。 Herneがアメリカ演劇におけるメロドラマという枠を超えることを試みたように、Miyagawaは、演劇と物語、アジアとアメリカ演劇という境界を越えようとする。以上のように、19世紀アメリカ演劇におけるリアリズムと、現代アメリカ演劇におけるリアリズムを超越する試みを同時に研究することで、アメリカ演劇の流れを再確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主たる目的は、19世紀アメリカ演劇におけるリアリズムの確立課程と、それに関わるJames A. Herneの貢献を探ることである。平成24年度には、リアリストの劇作家としてのHerneのオリジナリティとアメリカのニューイングランドという地域性が確かに彼の戯曲には存在することを研究論文という形で発表し、本研究の主たる目的は概ね達成された。 特に今年度は、Herneの戯曲にみられるリアリズムのオリジナリティを考察するにあたり、ある人物が行動を起こす際に、その人物を支配する環境という要因を強調している点に着目した。その点において、Herneの提唱するリアリズムには自然主義との融合という要素がみられることを論証した。さらに、19世紀アメリカのメロドラマが、登場人物を極端に善と悪に分割し、明解な結末の物語を、観客に分かりやすく描いたものであるならば、Herneの戯曲は、それらの要素を排除していることも論証した。愛ではなく義務感から派生する結婚を描くことで、Herneは、それまでのアメリカのメロドラマに顕著に描かれてきた結婚の神聖性を一部否定している。Herneに続いて20世紀のアメリカ演劇を担ってきたEugene O’Neill, Arthur Miller, Tennessee Williams, Edward Albee らの戯曲における夫婦、家族の描写の多くが、その否定的側面を暴露してきたことを考慮すると、Herneが、純粋な愛にのみ基づく結婚というメロドラマの約束事を打ち破ることからスタートしたのは、アメリカのリアリズム演劇成立において、極めて妥当な選択だったと言える。 このように19世紀アメリカ演劇にオリジナリティのあるアメリカ演劇が存在することを論証し、現代アメリカ演劇との関連についても調査を進められているので、本研究の成果には十分な手ごたえがあると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今まで取り組んできたJames A. Herneの戯曲と共に、同時代の劇作家Bronson Howardの戯曲研究にも取り組みたい。特に今後の研究期間においては、HowardのShenandoah, James A. HerneのGriffith Davenportにみる南北戦争の描写と劇的手法の関係を考察する計画である。 上記の両戯曲が発表された1880年代は、アメリカ演劇が独自の題材を求め始めた時代である。Howardは、Herneと同様に、アメリカを舞台に、アメリカ独自の題材を求めた劇作家であるが、彼の戯曲はあくまでメロドラマの単純化された道徳観、理解しやすい人物像、刺激的なアクションといった要素を提示している。南北戦争を題材とした戯曲はこの時代多くみられるが、観客は、南北戦争というドラマ化され、理想化された身近な過去に触れ、個人の尊厳、政治的自由、国家の統一というアメリカの価値観を再確認する作業ができたのである。 メロドラマと歴史ドラマの融合の典型となるのが、Shenandoahである。Howardは本作品において、北部の男性と南部の女性、南部の男性と北部の女性間のロマンスを描くことで、アメリカ合衆国の地域的連合という理想を具現化している。それは、戦争への悔恨を軽減し、アメリカの国家としての統一という理想を観客が再確認するプロセスでもある。一方、HerneのThe Reverent Griffith Davenportは、メロドラマとしてではなく、南北戦争を社会問題、個人に与える心理描写を前提として描いた作品である。 以上のような観点から、今後の研究においては、HowardとHerneの戯曲の比較を中心として、19世紀アメリカ演劇における南北戦争というテーマと、メロドラマからリアリズムへという転換期にあったアメリカ演劇の接点について考察を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、出版されたジェームズ・A・ハーンの戯曲のみでは調査することのできない範囲、つまり、出版台本に至るまでのハーンの戯曲の未発表原稿、初期草稿と、上演に関するその他の資料を検討する必要があるため、当初は、約3回に渡ってニューヨーク公立図書館、コロンビア大学図書館、およびニューヨーク大学図書館への出張を計画していた。しかし、平成24年度のニューヨーク公立図書館における調査でおおよそ必要な資料を収集し、当初の計画以上に調査を進めることができたことと、平成25年度は公務出張が重なったために、調査のための海外出張に赴くことが困難であったため、次年度使用額が生じた。 また、平成24年度には、論文、資料作成のためのノートパソコンの購入を計画していたが、それ以前から使用しているノートパソコンが、また使用可能な状態であったために、現在に至るまで購入はしていない。そのために次年度使用額が生じた。 今後の研究期間においては、James A. Herneの未発表原稿、上演パンフレット、上演メモ、リアリズム作家との書簡などの資料が収められているニューヨーク大学図書館、コロンビア大学図書館、ニューヨーク公立図書館などの研究施設へ直接赴く計画である。また1~2週間程度の滞在では、資料のすべてを読み、メモをその場で取ることは困難であるため、複写サービスを利用することが必要であり、その複写代金の使用も計画している。国内旅費については、資料収集および研究成果公開を目的とする研究発表のための出張と宿泊費の使用を計画している。平成26年度には、論文、資料作成に必要なツールとしてノートパソコンの購入を予定しているので、そのための費用を計上する計画である。
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Research Products
(3 results)