2012 Fiscal Year Research-status Report
エリザベス朝イングランドにおける騎士道ロマンスの発展と変容に関する文化史的研究
Project/Area Number |
24520328
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 准教授 (70299121)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | なし |
Research Abstract |
当該年度の研究では、エリザベス一世の表象において騎士道ロマンスが果たした役割を考察するために、特に妖精の女王のモチーフに焦点を当て、宮廷文化と大衆文化の協働と競合という観点からその変容を考察した。研究成果は「エリザベス朝宮廷祝祭における<妖精の女王>のロマンス的変容」として出版された。妖精の女王を舞台に登場させたシェイクスピアの『真夏の夜の夢』や『ウィンザーの陽気な女房たち』はいずれも、妖精の女王をその性的側面を排除して活用した宮廷祝祭におけるエリザベス賛美の流れを汲んだ上で、それを戯画化した演劇として位置づけることができる。本論文では、こうした妖精の女王をめぐるロマンス的モチーフの変遷には、エリザベス表象に内在する多義性のみならず、それが大衆出版や商業演劇の発展によって制御不可能な拡散性をも獲得していった様子が窺えることを明らかにした。また、エリザベス朝末期の宮廷祝祭における騎士道文化の変容という観点から1590年代の法学院劇に関する研究を行い、グレイ法学院のクリスマス祝祭『ゲスタ・グレイオールム』を同時代の政治的文脈で解釈した。研究の一部は、「友愛のスペクタクル―『ゲスタ・グレイオールム』と1590年代の政治危機」と題し、第51回シェイクスピア学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は、近代初期イングランドにおける宮廷文化と大衆文化の接点として騎士道ロマンスを位置づけた上で、その発展と変容を検証することを目的とする。当該年度に発表した上述の論考「エリザベス朝宮廷祝祭における〈妖精の女王〉のロマンス的変容」では、当該研究が課題とする1570年代から1590年代を扱い、もともとは宮廷祝祭で流行した妖精の女王というロマンス的モチーフが、大衆散文物語や商業演劇を通してロンドン市民文化に浸透していく過程を跡付けることに成功した。また、シェイクスピア学会での研究発表「友愛のスペクタクル―『ゲスタ・グレイオールム』と1590年代の政治危機」では、従来あまり研究が進んでいない法学院の祝祭文化に焦点を当て、それがエリザベス朝末期の宮廷政治や宮廷祝祭文化と密接な関係を有していたことを指摘し、宮廷社会から市民社会への文化の流動を新たな角度から照射した。
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Strategy for Future Research Activity |
エリザベス朝の騎士道ロマンス文化の変容を、1590年代の祝祭文化と関連づけて調査する予定である。特に、1580年代後半以降一躍宮廷祝祭の寵児となった第二代エセックス伯ロバート・デヴルーが当時の大衆演劇文化に与えた影響を精査する。騎士道的なオーラを纏った宮廷祝祭行事は、野心溢れる若い貴族にとって、自身の英雄的資質を女王のみならず市民に対しても誇示する絶好の機会となったが、こうした宮廷祝祭が一般市民に対して発揮する訴求力を熟知すると共に、それを最大限に活用したのがエセックス伯であった。1594年のグレイ法学院における祝祭『ゲスタ・グレイオールム』、1595年の戴冠記念馬上槍試合における余興『愛と自己愛について』など、エセックス伯が関与した一連の祝祭の考察を通して、宮廷文化が大衆文化に接続される過程を文化史的に再構築する。 また、1590年代の法学院祝祭のロマンス的趣向に関する研究を引き続き進める。キリスト降臨節から懺悔節にかけて、インナー・テンプル法学院、ミドル・テンプル法学院、グレイ法学院、リンカーン法学院で盛大に催された祝祭は、架空の王のもとに枢密院を組閣し、騎士団を結成する、という類似の趣向を共有しており、そこには明らかに宮廷で流行した騎士道ロマンス的な祝祭の影響が窺える。前年度の研究で調査したグレイ法学院の祝祭『ゲスタ・グレイオールム』に加えて、同じく1590年代後半にインナー・テンプル法学院で催された祝祭『アムール王』に関する調査を進める。騎士道ロマンスが宮廷文化を市民文化へと接木するメディアとなった可能性を明らかにすることによって、それがロンドンの祝祭文化にもたらした変容を解明する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:物品費の大半は、当該研究を行うために不可欠な16世紀のエリザベス朝文学、及び近代初期イングランドの歴史学関連の図書費に充当する予定である。特に、ブロードサイドバラッドや法学院劇に関する図書資料を購入する予定である。 旅費:法学院の祝祭は、校訂版、ファクシミリ版共に未出版の場合が多く、Early English Booksのオンラインデータベースを調査する必要がある。オンラインのデータベースは、画像が不鮮明である場合も多く、イギリスの図書館で古版本の原書を確認する作業も伴う。また、祝祭に携わった法学院生の間で回覧された詩作品、特に『アムール王』の企画者の一人である詩人John Daviesに関する資料収集をイギリスのボドリアン図書館で行う予定である。
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Research Products
(2 results)