2013 Fiscal Year Research-status Report
エリザベス朝イングランドにおける騎士道ロマンスの発展と変容に関する文化史的研究
Project/Area Number |
24520328
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 教授 (70299121)
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Keywords | 騎士道ロマンス / エリザベス朝 / 祝祭 / 法学院 |
Research Abstract |
当該年度の研究では、エリザベス朝騎士道ロマンス文化の変容を考察するために、1590年代の法学院祝祭に関する調査を行った。大学と同様に法学院でも演劇活動が盛んに推奨されたことは従来の研究で指摘されているが、それがクリスマス祝祭を中心とする祝祭文化と密接に結びついていたことは看過されてきた。本研究では、1590年代に行われた二つの法学院祝祭、グレイ法学院で行われた『ゲスタ・グレイオールム』(1594~1595年)とミドル・テンプル法学院で行われた『愛の王』(1596~97年)を取り上げ、親密かつ多分に政治的な法学院共同体において宮廷祝祭の騎士道ロマンス的モティーフがいかに援用されているかを分析した。調査の結果、二つの法学院祝祭が共に、1580年代以降一躍宮廷祝祭の寵児となったエセックス伯が標榜する騎士道的エートスの影響を強く窺わせていること、また、『愛の王』においては、こうした騎士道精神に対置される形で市民的な政治理念が前景化されていることなど、宮廷文化と市民文化の混淆を跡づける上で有益かつ興味深い知見が得られた。研究の一部は、学術論文「『ゲスタ・グレイオールム』における騎士道的友愛のスペクタクル」(『立命館文学』第634号)、口頭発表「『ゲスタ・グレイオールム』と『愛の王』―1590年代における法学院の祝祭文化」(「宗教とテューダー朝演劇の成立」研究会)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は、近代初期イングランドにおける宮廷文化と大衆文化の接点として騎士道ロマンスを位置づけたうえで、その発展と変容を検証することを目的とする。前年度の研究では、エリザベス朝における宮廷文化と大衆文化の混淆には祝祭文化の介在があったことを明らかにした。例えば、エリザベス一世の戴冠記念日に行われた馬上槍試合や、聖ジョージの日に催されたガーター騎士団の記念式典は一般に公開されており、宮廷文化が領有していた騎士道ロマンス的モチーフや理念を大衆文化へと伝播・拡散させる役目を果たした。この知見を活用し、当該年度では、騎士道ロマンス的趣向を取り入れた法学院の祝祭文化に関する調査を行った。法学院劇及び法学院祝祭は、史料が乏しいこともあり、未だ研究の立ち遅れが目立つものの、近年大きな批評的関心を集める分野でもある。当該年度の研究では、エリザベス朝末期の法学院は、エリート養成機関として宮廷と密接な関連を有する一方、商業的発展を背景として市民階級の子弟を多く受け入れるようになった結果、多層的な共同体に変化しつつあったことを明らかにした。その上で、法学院祝祭が宮廷で発展した騎士道ロマンスのモティーフを援用しつつも、そこを風刺的・批判的な視点を加えることによって、17世紀前半のジェイムズ朝における市民文化の隆盛を既に予兆していることを跡付けることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
ロンドンの市民文化を背景に発展した大衆的な騎士道ロマンスに関する調査・分析を行う予定である。特にリチャード・ジョンソンやトマス・ディローニーといった徒弟出身の作家による散文物語を取り上げ、急速に肥大化するロンドンの都市型商業文化を視野に収めつつ、16世紀後半から17世紀前半にかけて隆盛を極めた大衆騎士道文学が構築した新しい英雄像を考察する。また、騎士道文学の受容の実態を精査することによって、近代都市市民が自らを共通の利害や意識を有するグループとして自己成型する過程においてこれら大衆散文物語が果たした役割を検証することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の研究を推進する上で不可欠な大型図書が年度末に刊行され、物品費(図書購入費)が当初予定した金額よりも多くなった。そのため、3月に予定していたイギリス出張の旅費を、2014年度に入ってから全額支出することとしたため、結果的に2013年度としては残額が生じた。 物品費:物品費の大部分は、当該年度の研究を遂行するために不可欠な16世紀のエリザベス朝文学、及び近代初期イングランドの歴史学関連の図書費に充当する予定である。特に、大衆的な散文物語やバラッドに関する図書資料を購入する予定である。 旅費:当該年度において研究を進める大衆出版物には校訂本が存在しない場合が多く、イギリスのボドリアン図書館において古版本やEarly English Booksのオンラインデータベースを調査する必要がある。また、必要に応じて、ロンドンの同業者組合附属の古文書史料室において文献調査を行う予定である。
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Research Products
(2 results)