2012 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ国家・国民意識との関連における国民祝典劇・記念碑の最終形態を探る
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24520334
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
鈴木 将史 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (20216443)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 祝典劇 / 正規転換期文学 / ゲルハルト・ハウプトマン / 記念碑 |
Research Abstract |
本年度前半は、祝典劇を娯楽劇として成功させた19世紀末転換期の作家ヴェルニンクの祝典劇の実態解明に取り組んだ。ヴェルニンクは、そのファーストネーム「パウル」さえも定かではない「謎の興行師」でもあり、彼の祝典劇も原典は殆ど現存していない。ただ、その反響は頗る良好であったらしく、雑誌“Kunstwart“等でヴェルニンク祝典劇のドイツ各地での上演に関する報告が再三に渡りなされている。ただ、劇の内容はかなり様式化されたものであったらしく、雑誌“Kunstwart“は同時に痛烈な批判をヴェルニンク祝典劇に加えた。ただ“Kunstwart“も世紀転換期ドイツに流行したドイツ本来の文化の保持を謳う「郷土芸術」を標榜しており、こうした批判は単なる文学的問題に留まるものではない。そして本年度の研究により、“Kunstwart“のヴェルニンク祝典劇批判は、実は「ヴェルニンク祝典劇を利用した“Kunstwart“自体のマッチポンプ的な広報活動」の形跡が色濃いことが明らかになったのである。また、解放戦争100周年を迎えるこの当時には戦争当時の高揚感も収まるに従い、ケーニッヒの『シュタイン』や、ハイヤーの『貫徹!』(“Durch!“)など、愛国精神を殊更強調はしない一般戯曲に近い祝典劇も生まれてくるが、これらの作品の延長線上にハウプトマン祝典劇も存在していることが確認された。そして、本年度後半には、いよいよハウプトマン祝典劇『ドイツ韻律による祝典劇』(1913)の研究に着手し、その詳細な成立背景を検証した。記念碑研究に関しては、「キュフホイザー記念碑」や「諸国民戦争記念碑」など、国民記念碑の最終形態ともいえる巨大記念碑の調査・考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に取り組む予定だったヴェルニンク祝典劇の実態解明に関してはほぼ目的を達成した。ただ、興行師ヴェルニンクの存在自体は確認されたものの、その反響が実際に雑誌“Kunstwart“が報告するほど大きいものであったのかは、最終的に実証することができなかった。しかしそれに代わる成果として、「郷土芸術」を報じる文化・芸術団体「デューラー同盟」とも関係の深い“Kunstwart“が、「郷土芸術」の精神を広報するために、ヴェルニンク祝典劇を実態以上に報告し、痛烈な批判を浴びせたことが判明した点は相応の成果といえよう。祝典劇創作の原動力となり、当時流行していたドイツ愛国精神が、本来のドイツ精神を礼賛する「郷土芸術」と一線を画していることが判明したことも、本年度の本研究で得られた大きな成果である。また、20世紀初頭に現れた、文学性も重視したより一般的な戯曲に近い祝典劇群についても本年度は詳細に検証し、ケーニッヒの『シュタイン』や、ハイヤーの『貫徹!』などに代表されるこうした作品群の延長線上に、近代国民祝典劇の最終形態とも見なされるハウプトマン『ドイツ韻律による祝典劇』(1913)が存在していると結論した。そこからひいては、ハウプトマン祝典劇の成立前史の調査まで、本年度は研究計画を前倒しして研究を進めることができたが、国民記念碑研究に関しては、「キュフホイザー記念碑」や「諸国民戦争記念碑」などの国民記念碑の最終時代を彩る巨大記念碑群の建設背景とその建設意義について、本年度は十分な考察を行うまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今までの科学研究費助成研究も含めて、ハウプトマン『ドイツ韻律による祝典劇』の興行的失敗が如何にして生じたのか、ハウプトマンが理解していた祝典劇とは如何なる形式・内容の劇であったのかを究明するべく着手されたものである。本年はハウプトマン祝典劇の成立前史に着手し、ハウプトマン文学研究を専門とする申請者が、当初目論んだ研究領域にようやく到達する段階となった。ハウプトマンは、祝典劇を制作するに当たって、同時代の作品を参考にすると共に、自らが畏敬して止まず、また周囲からはその再来と称された「国民詩人」ゲーテの影響を少なからず受けた。なぜなら、ゲーテも同様の経緯でワイマール政府から依頼され、祝典劇『エピメニデスの目覚め』を制作しているからである。そして、この作品も反響は芳しくなく、数度の上演で打ち切られているのだが、「目覚め」はその後の祝典劇のキーワードのひとつとなり、他の作家による続編が発表されるなど、後の祝典劇に一定の影響を与えるのである。『エピメニデスの目覚め』そのものは、前回研究で19世紀前半までの祝典劇の流れの中で分析を行っているのだが、その100年後にハウプトマンが時代精神を踏まえながら、ゲーテ作品の要素を如何に自作へと取り込んだのか、他のゲーテ作品も参考にしながら、ハウプトマン文学の一側面を探ってみたい。また、そこには彼の盟友オットー・ブラーム及び演出家マックス・ラインハルトの影響も無視できない。そして最終的には、祝典劇の最終形態と目されるハウプトマン祝典劇及び「キュフホイザー記念碑」や「諸国民戦争記念碑」などの国民記念碑の最終時代を彩る巨大記念碑群を通して、20世紀初頭のドイツ愛国精神の本質を究明していく方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ドイツ20世紀初頭文学史・祝典劇関連図書。 G.ハウプトマン、J.W.ゲーテ関連図書。 ドイツ青年運動・ドイツ愛国精神関連図書。 記憶メディア、プリンタカートリッジ等消耗品。 複写費。
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Research Products
(3 results)