2013 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ国家・国民意識との関連における国民祝典劇・記念碑の最終形態を探る
Project/Area Number |
24520334
|
Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
鈴木 将史 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (20216443)
|
Keywords | 祝典劇 / 国民記念碑 / ゲルハルト・ハウプトマン / ドイツ近代文学 / マックス・ラインハルト / オットー・ブラーム |
Research Abstract |
本研究計画の最終目的は、「20世紀ドイツ国民祝典劇・記念碑の最終形態を探る」というものであるが、国民祝典劇の最終形態の集大成と目されるG.ハウプトマン『ドイツ韻律による祝典劇』(1913)を綿密に検証・考察することが、本研究ではとりわけ重要となる。(この作品以降、世間の注目を集める祝典劇はドイツには登場しない。)昨年度から既に本作品の成立前史研究は、それまでの祝典劇史研究を踏まえ着手されていたが、本年度からは本格的にこの国民祝典劇におけるターミナル・ワークとなる本作の研究に取り掛かった。本年度前半では、本作の直接的な成立背景として、20世紀初頭における劇作家ハウプトマンと、彼を見出した劇場監督O.ブラーム、それに同じくブラームが役者として見出し、後に彼を追い落とすまでの演出家・劇場監督へと上り詰めたM.ラインハルトとの複雑な関係を様々な書簡・証言から検証し、ブラームの存在により叶わなかった当代の人気劇作家ハウプトマンと人気演出家ラインハルトの共同作業が、『ドイツ韻律による祝典劇』でようやく実現した状況を綿密に分析した。そして本年度後半には、晴れてラインハルトと組むことが可能となったハウプトマンが「祝典劇」と執筆にためらうこととなる、その背景の詳細な分析へと移行した。ハウプトマンは従来から優柔不断な性格で知られており、手を付けたものの完成できなかった未完作も相当数に上るが、この祝典劇執筆への躊躇には、作家本人のそうした性格以外にも、「祝典劇」という文学ジャンルを執筆することへの彼自信の違和感、並びにラインハルトが編み出し、後に一世を風靡する「大規模演出」への不安が認められる。本研究ではそうした作家の態度を分析することにより、最終段階で付け加えられた祝典劇の新たなる形態の特徴を考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に取り組む予定だったそれまでの国民祝典劇史を踏まえた『ドイツ韻律による祝典劇』成立史分析は、ハウプトマンが作品を執筆する直前の段階まで分析を進めることができた。ただ、概要でも述べた当時のハウプトマンを取り巻く二人の重要人物-O.ブラームとM.ラインハルト-との関係が、特にこの両者間の軋轢を伴うことによって非常に錯綜しており、その分析に予想外の時間がかかったことは事実である。しかし、この3者の、更に間に劇作家F.ホレンダーを挟んだ一種異様な相関関係を、相当深部まで解きほぐすことができたせいで、20世紀初頭のベルリン演劇界の一実相が明らかになるという、思わぬ副産物を得ることができたのは本研究における予想外の収穫であった。従って、昨年度からの研究推進方策に加えていた「祝典劇執筆を契機として顕在化してくるハウプトマンのゲーテに対する意識」研究は、本年度では着手するまでに至らなかった。また、ドイツ国民記念碑研究においても、本年度は資料収集・分析に務めてはいたが、公刊論文作成までには至らなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今までの科学研究費助成研究も含めて、ハウプトマン『ドイツ韻律による祝典劇』の興行的失敗が如何にして生じたのか、ハウプトマンが理解していた祝典劇とは如何なる形式・内容の劇であったのかを究明するべく着手されたものである。本年度は、実質的にゲーテ『エピメニデスの目覚め』により創始されたドイツ国民祝典劇が、ハウプトマン『ドイツ韻律による祝典劇』により如何なる最終形態へと結実し、その後ナチスのプロパガンダ演劇すなわち「ティンク劇」へと「退廃」する様相を追跡したい。その際の重要な研究テーマは、ハウプトマンにおけるゲーテ受容、及び最終的には自らをゲーテと同一視するに至った彼の「ゲーテ観」の分析である。そうした意識は、彼が『ドイツ韻律による祝典劇』依頼を受諾した時点で初めて公に現れてくると考えられる。彼のこの意識を分析することにより、彼が影響を受けた当時のドイツ愛国精神の相貌も明らかになることだろう。また、国民記念碑も、19世紀の代表的記念碑「キフホイザー記念碑」や「ニーダーヴァルト記念碑」や「ヘルマン記念像」に比して20世紀初頭の「諸国民戦争記念碑」は、劇的な構造的・精神的変化を遂げている。その相違点の詳細分析も併せて、19世紀初頭から20世紀前半に亙るドイツ愛国精神の変貌を理論づけたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定していた書籍の購入が間に合わなかったため。 次年度、物品費に41,047円を上乗せし書籍購入費として使用する。
|
Research Products
(3 results)