2014 Fiscal Year Research-status Report
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24520339
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (10168346)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | クンストカマー / 見えないロッジ / 第二の世界 / ミクロコスモスとマクロコスモス / 天球の音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度はジャン・パウルの『見えないロッジ』(1793)を研究対象とした。『ジーベンケース』Siebenkaes(1796)において全貌を見せるジャン・パウルの逸脱と異なったものを強引に結びつける比喩はこの作品においてもすでに見られる。物語の流れは逸脱と比喩によってそこかしこで寸断される。筋の一貫性という観点に立てばこの逸脱はマイナス要因であり、多くの批評家に批判されたところでもある。しかしながら作品の三分の二を占めるこの逸脱に着目するならば、J.パウルの主眼がむしろこの逸脱にあると考えるべきである。この問題を巡ってはすでに1961年にドイツの研究者W. Dietrich Raschが、その著『ジャン・パウルの語り口』Die Er- zaehlweise Jean Pauls (Carl Hanser Verlag)でこの逸脱が調和を失った世界の断片化と呼応していると指摘している。現実の世界を支配している不調和と、「楽園」としての無限なる「自然」が顕現する「第二の世界」の対立は『見えないロッジ』においても顕著である。本研究課題である「クンストカマー」受容との関連でいえば、ジャン・パウルにあってはクンストカマーは先ず調和と統一を失った現実を映す鏡として現れている。しかし、そのクンストカマーを貫いて、本来のクンストカマーの思想の背景にあるミクロコスモスとマクロコスモスの照応にとって決定的である、調和の象徴を意味する「天球の音楽」Sphaerenmusikが鳴り響くことがある。 ジャン・パウル作品にあってもクンストカマーの思想は、屈折した形ではあるが、脈々と生きていることを解明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は『見えないロッジ』を精読し、この作品においても屈折した形であれクンストカマーの思想が生きていることをほぼ明らかにできた。しかしながら、予定では長編小説『ジーベンケース』も研究対象としていたが、研究成果としてまとめるところまでは達しなかった。ただし、『見えないロッジ』の構造が『ジーベンケース』においも見て取れるであろうという予測を立てることができた点で、達成度は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の目的の達成度はやや遅れているものの、『見えないロッジ』を精読し、構造を把握できたことは大きく、今後のジャン・パウル作品理解の前提条件は達成できた。これを基盤に平成27年度は『ジーベンケース』の構造をクンストカマーの思想との関連で解明する。
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Causes of Carryover |
予定していた海外渡航が年度末になり平成27年度4月に食い込んだことと、滞在期間が予定より短くなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、海外渡航および海外からの研究者招聘等を計画しており、これまでの残額もそれらに当てる予定。
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