2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24520339
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (10168346)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | クンストカマー / ドイツ・ロマン派 / ノヴァーリス / J.パウル / シラー / 近代 / 自然 / 理想郷 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、 本年度、本来ルネサンス・バロック期にヨーロッパ中で見られた収集室であるクンストカマーの概念が、ドイツ・ロマン派期の文学、とりわけJ.パウルにどのように受容されたかを精査した。 ノヴァーリスにおいては、断片(「一般草稿」929および963)」に現れる「クンストカマー」概念が、失われた「楽園」、失われた宇宙の全体性の再現を巡る思索であることを既に明らかにしたが、J.パウルについては二つの初期長編作品『見えないロッジ』(1793 年)と『ヘスペルス』(1795)を対象とし、クンストカマー概念がどのように使われているかを検証した。その結果、両作品においてクンストカマー概念は、先ず、「植物標本」等の、クンストカマーを構成する重要なコレクションとして現れてはいるが、それらが、ノヴァーリスの場合とは異なって、否定的なニュアンスで描かれていることが判明した。クンストカマーはJ.パウルにあっては、断片化してしまった世界―すなわち、統一と調和を失った世界―の比喩として使われている。 しかしながら『見えないロッジ』の付録として書かれた「ご満悦なヴッツ先生」においてのみクンストカマーは、ヴッツ先生の幼年時代の「がらくた」の集積でしかないが、それらがヴッツ先生に幼年期というユートピアを常に想起させるという意味でクンストカマーの持つ「楽園」の象徴として描かれていることを突き止めた。さらに、この作品に「ある種の牧歌」という副題が添えられていることから、当時の牧歌の概念(たとえばシラー)からして、この小品が近代に失われてしまった「無垢の状態にある人間」、すなわち自らとまた外界との調和と平和の状態にある人間」を描いていることを解明できた。 また、「ヴッツ先生」の後ではクンストカマーは近代の否定的側面を象徴するものとなることも指摘できた。
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Research Products
(5 results)