2015 Fiscal Year Research-status Report
『百科全書』本文生成研究:「黙示的典拠」の解明と解釈
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24520342
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
逸見 竜生 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60251782)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディドロ / 啓蒙思想 / 18世紀フランス / 『百科全書』 |
Outline of Annual Research Achievements |
『百科全書』研究において本文校訂が研究の基盤となることは言を俟たない。本文研究は近年進み、その実態は少しずつ明らかになりつつあるが、未解明のまま残された部分は多い。本研究の主たる目的は、特にその中でも材源研究に焦点を定め、本文内で明示化されていない「黙示的典拠」の特定とその解釈を系統的かつ包括的に行うことにある。 本研究の特色は、現代の読者には不可視であるものの、本文中相当量を占めると思われる黙示的な主要材源の解明を行いながら、特定主題の項目を体系的に解析することで、従来像よりもはるかに複雑で重層的な『百科全書』の言説実践を読み解くことである。また、汎ヨーロッパ規模で広がる過去の学知の伝統と継承に対する、ディドロら百科全書派たちによる、多くの場合寡黙な働きかけの詳細を実証することにより、その言表構造の特異性を具体的な歴史的文脈に基づき例証することである。 本研究の柱となるのは以下の三つであった。すなわち、1)比較照合法による黙示的典拠の特定、2)本文における材源の転用様態の解明、および 3)転用行為の歴史的意図の復元である。本研究では従来の研究で充分に取りあげられなかったロバート・ジェームズ『医学辞典』翻訳(1744-1746)との校合を中心に、これらに関して比較的に詳細に分析をおこなうことができた。その結果、『百科全書』における黙示的典拠の実態が、より明確に明らかになった。今年度は特に、上述の3点のうち1)および2)に関する研究経過の検証をおこなった。それとともに3)を含めた研究の進展に務めた。 なお、国内外学会報告および研究論文による研究業績を、研究計画の当初予定よりも多く公開することができたことも、特筆すべきである。この点については次項でより詳細に記す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの過程で、本研究は1)医学・生理学および関連分野に分類される『百科全書』項目について、比較照合法による黙示的典拠の特定を進め、それとともに2)黙示的典拠はいかにテクスト本文のうちに組み込まれているのか、それぞれの引用者による原テクストの「転用」(appropriation)の具体的様態の比較分析を行い、本文における材源の転用様態の解明を進めた。特にロバート・ジェームズ『医学辞典』翻訳(1744-1746)との校合は、これらの具体的な様相について多くの知見をもたらすものであった。これらに加え、2013年度以後は特に、3)転用行為の意図の歴史的解釈、すなわち検閲、剽窃、個人的資質といった従来の解釈の地平を超えた、転用行為の意図の解釈を試みた。その過程で特に、論争史的枠組みをより広範に本文分析に導入するアプローチの可能性に注目した分析を行っている。なかでも、『百科全書』項目「政治的権威」の校合による形成研究は、この転用行為の意図を論争史的枠組みに基づき分析しえたものである。これらの研究の成果は、学術論文1本により報告され、また海外で行われた以下の4つの国際学会報告・招待講演にて、フランス語にて発表された。 1)国際18世紀学会国際シンポジウム(2015年7月30日、ロッテルダム大学) 2)フランス科学アカデミー『百科全書』電子批評校訂版編集委員会(2015年10月CIRMマルセイユ大学(フランス) 3)古典思想史研究所セミナー(2016年3月、リヨン高等師範学校古典思想史研究所) 4)国際シンポジウム「『百科全書』・『王立科学アカデミー提要』」(2016年3月、リヨン高等師範学校)
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる来年度は、これまでの研究の仕上げとして、研究成果の総括と公開をさらに進めていく必要がある。総括としては、計画中の最終段階である3)転用行為の意図の歴史的解釈について、実証的知見を積み重ねて更に掘り下げていくことが必要である。研究計画においては、代表者は、内外での講演、研究集会、シンポジウム、2015年にロッテルダムで開催を予定されている国際18世紀学会への参加を始め、発信型の活動にも力を入れ、とりわけ欧米で組織される国際的な共同研究組織と連携を強め、この企画をさらに進める次の段階に向けての準備に入りたいと述べていた。 前項「現在までの進捗状況」で述べたように、2015年度は予想を超えた規模で研究成果の発信が可能となった。2016年度も引き続き発信型の活動に力を入れる。具体的には以下のように予定している(☆は現段階ですでに公開済み)。 ☆1)学術論文の国際論集における刊行(共著)。プロヴァンス大学、2016年4月、☆2)研究論文集刊行(単著)。新潟大学現代社会研究科、2016年4月、3)学術論文の国際論集における刊行(共著)。パリ、マテリオロジック社、2016年9月。 また、本成果はフランス科学アカデミー『百科全書』電子批評校訂版編集委員会との国際共同研究の形で電子媒体として世界の研究者・一般読者に向けて公開し、『百科全書』の学問的な最新研究基盤として広く活用する場を提供する。それに関連しては、以下の国際学会、国際セミナーでの報告が予定されている。1)ソウル大学人文研究院における学術セミナー2016年5月、2)国際18世紀学会(パリ、2016年12月)での研究報告。
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Causes of Carryover |
概ね研究実績は予想を超えて達成しているものの、なお一部に調査上の確認を要する事項が若干残っていることと、本研究に関連する国内外の学会への参加を予定しており、そのために次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主として資料追加購入費と関連物品費に使用するほか、国内外の研究旅費に一部を使用する予定である。
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Research Products
(10 results)