2015 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀フランス思想における言語論の研究―ルソーとその同時代の思想家を中心に―
Project/Area Number |
24520349
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
増田 眞 京都大学, 文学研究科, 教授 (10238909)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ルソー / 言語論 / 18世紀フランス思想 / 音楽論 / 『言語起源論』 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は引き続きルソーを中心とする18世紀フランスの言語論についての研究を進めた。そのほか、期間全体を通して、18世紀フランス以外の言語論についてもある程度調査することができ、その範囲はプラトンの『クラテュロス』からヘルダーの『言語起源論』に及ぶ。 全体として、ルソーの言語論と彼の思想のほかの側面との関係について体系的に研究することができた点で今回の補助金は非常に有益であった。ルソーの思想における言語論の位置は最近まであまり研究されてこなかったが、ルソーが自分の人間論に合致するようにその言語論と音楽論を意識的に体系化していったことを明らかにすることができた。特に、同時代の思想家たちが言語の起源を動物的な叫びや身振りに求め、唯物論的な言語論を展開することが多かったのに対して、ルソーは言語の起源を感情という人間独自のレベルに求め、人間独自の表現手段としてとらえた。ルソーの音楽論もその延長であり、同時代人たちがラモーの影響のもとで和声という物理的な原理を重視していたのとは逆に、ルソーは人間の声や歌、メロディーを原理とする音楽論を展開した。 また、ルソーの『エミール』は「消極的教育」の理論が有名であり、言語による介入を排除した教育論であると思われがちであるが、実際には言語が非常に重要な役割を担っていることも明らかにすることができた。『エミール』は自律的な主体の形成を目的としており、その文脈では説得と誓約という契機が重要であり、言語論と密接な関連が見出される。 さらに、より広い視点に立てば、ルソーの言語論は「いかにして人を動かすか」というレトリックの根本問題とも関連しており、ルソーにおける法の観念とも密接に関連している。 なお、研究期間中にルソーの『言語起源論』を翻訳して、それは2016(平成28)年夏に岩波文庫の1冊として刊行される予定である。
|