2012 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツの印刷メディアとしての児童文学の成立-『子どもの友』を例に
Project/Area Number |
24520352
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉田 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (40551932)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ドイツ / 18世紀 / 文化史 / 児童文学 |
Research Abstract |
平成24年度の研究実績は大きく2点にまとめることができる。まず第一点は、当初予定していたように、18世紀ドイツで出版された子ども向け雑誌である『子どもの友』の出版史に関連する調査である。第二点は、複数版(複数種類)出版が確認できる『子どもの友』のなかから、クリスチャン・フェーリクス・ヴァイセが編集した『子どもの友』を入手し、その内容についての分析に着手した点にある。まず『子どもの友』の出版史であるが、おおむね予想していたとおりの結果であった。ヨーロッパとりわけドイツの大学図書館の蔵書カタログをベースに調査をすすめたところ、同タイトルの書籍が十八世紀ドイツでは多数出版されていることが確認できた。さらに再版や改版のものまで加えると、当初予定していた数をはるかに上回る書籍が研究対象として視野に入ってくることもわかった。また同時に、編集者が不明の雑誌も複数点存在が確認できたが、すべての不明図書について編集者や出版地が特定にこぎつけたわけではない。また第二点についてであるが、ヴァイセ編集の『子どもの友』およびその続編である『子どもの友の編者からの手紙』について、ドイツの主要大学図書館の蔵書状況を確認し、初版の全巻をマイクロフィルムにおさめることができた。また研究を遂行するためにはフィルムではなく紙媒体で手元におくことが必要なため、フィルムからプリントアウトしたものも同時に用意した。本雑誌を通読し、記事のおおまかな分類をおこなった。単純に頁数の比率でいえば、子ども向けの戯曲が一番多く、旅行記や自然科学的な内容の子ども向けの読み物がそれに続くことがわかった。とりわけ戯曲については編集者のヴァイセが後年編集し子ども向け戯曲集として出版していることも判明した。このような記事類型作業の結果、内容分析の核となるのは、地の文に描き出されているドイツの市民の家庭の様子であることもはっきりしてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に予定していた研究のうち、一次史料であるヴァイセ刊の『子どもの友』を入手するための蔵書調査をはじめとする準備調査は無事におえることができた。また入手たのめたの緒手続きおよび依頼も順調にすすめることができた。多くの史料はマイクロフィルムの形で保管しているが、研究担当者の研究室備品のマイクロフィルムリーダーが故障したため、フィルムを紙にプリントアウトする作業が大幅に遅れてしまった。それゆえ『子どもの友』そのものの内容分析への取組みが予定よりもおくれてしまった。とはいえヴァイセ以外の編集者の手になる他の『子どもの友』についての出版史調査それに関連する先行研究の調査は順調に作業をすすめることができた。またヴァイセ刊『子どもの友』の詳細な内容分析に先立って、記事のおおまかな分類に着手した。この準備作業のなかで、十八世紀の子どもを読者とした視覚史料(銅版画)、童謡、なぞなぞ(言葉遊び)など、これまで研究されてきてこなかった種類の記事が多数含まれていることがわかった。これらの子ども向けの記事は、今後、個別の研究テーマとして発展しうるものであり、これまでいわゆる「児童文学」として考えられてきた、文学ジャンルを批判的に検討するための重要な手がかりになると期待している。『子どもの友』に関連する出版史研究のなかからも、編者や出版地が不明な図書が複数点確認できた。『子どもの友』が形成する18世紀の児童文学の世界または子どもをめぐる読者環境の広さがあらためて明らかになったと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究を終えて、当初予定していなかった課題が2点存在することがあきらかになってきた。1点目として、今後の史料を入手する方法を再検討する必要があると考えている。これまで史料は長期の保存に耐えうるマイクロフィルムを活用してきたが、研究担当者が日常利用しているマイクロフィルムリーダーが故障により、全く利用することができなくなってしまった。研究担当者が研究遂行のために活用しているドイツの主な大学図書館のなかには、マイクロフィルムではなく、電子スキャンによる複写もおこなっている図書館もある。確かに電子ファイルを活用すれば、PCからプリントアウトが可能となるので、フィルムリーダーは不要となるが、とはいえ電子スキャンによって史料を入手したとしても、その電子史料の保管が新たな問題となるだろう。PCに保存しておくのはとても危険だ。史料複写の方法を含めて、史料保管や史料整理の環境を早急に再検討し、今後の研究を円滑に進めたいと思っている。2点目は、本年度の調査により、編者や出版地が不明な『子どもの友』が数点存在することが明らかになってきた。これら不明図書の編者や出版地の特定するためには、現物を手に取って似たような他の版とこまかくつきあわせる照合作業が必要となる。さらに、これら不明な図書が、研究に値する一次史料であるのかどうかについても判断を下す必要がある。そのためにも、平成25年度に予定しているドイツの大学図書館での調査において、これら不明図書の調査を実施する必要があると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)