2013 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ語圏における文学と映画の相互関係についての考察
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24520353
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 佳樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (90240134)
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Keywords | 独文学 / 映画 |
Research Abstract |
平成25年度も、平成24年度にひきつづき、トーマス・マンと映画の関係を中心に研究を進めた。 1975年にドイチェ・キネマテーク財団が刊行したカタログ『映画とトーマス・マン』には、映画についてのマンの発言が収められている。このカタログを入手し、マンの映画論のうち、現時点では全集等で読むことができず、これまでほとんど論じられてこなかった、4つの貴重なテクスト(1928、1931、1932、1934)について詳細な分析を行った。 その結果、昨年度の研究であきらかになったマンの映画論の3つの特徴のうち、特徴①(映画への軽蔑と愛情の混じった態度)と特徴②(映画と芸術の差異化)については、程度の差はあれ、すべてにおいて認めることができた。その一方で、特徴③(自作の映画化を気にかけていること)を示しているものはなかったが、その理由は従来の全集の編集方針に起因していると思われる。 マンの映画論を全体として見れば、やはり、マンは映画をあくまでも大衆を啓蒙・教育する手段と考え、自身の文学表現のあり方を根底から揺すぶるようなものとしては受けとめていなかった、という印象を強くせざるをえない。これがマンの映画論がもの足りなく感じられる最大の要因であろう。いわばマンは映画館に文学を持ちこまなかった(自作の映画化はこれとは別の話である)。映画館の暗がりのなかで彼は、厳格な文学の仕事から離れ、見る快楽に耽ることを自分に許し、自己のエロティックな欲望をひそかに満足させたのだ。この意味では、マンはまさに大衆と同じように映画を味わったのであり、ドイツ教養市民、および、ドイツ文化の代表者という自己規定と、映画観客としての自画像とのギャップが、映画に対する常にアンビヴァレントな態度を生んだのではないだろうか、というのが現時点での結論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トーマス・マンが映画について発言し始めた時期である1920年代におけるマンと映画の関係を考察した平成24年度に引き続き、平成25年度は1930年代を中心に映画についてのマンの発言を分析した。『文化の解読(13)―文化とコミュニティ』(大阪大学言語文化研究科、2013年)に寄稿した論文「トーマス・マンの映画論(補説)」は、その成果のひとつである。ここまでの研究で、映画に対するマンの態度というテーマについては一定の結論を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、トーマス・マン以外の作家の映画に対する関係を調べ、適宜マンの場合と比較していく。まずはスイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットと映画との関係を考察する予定である。 また、本研究は、文学作品の映画化という問題も射程に収めている。具体的には、1960年代に一大ブームを巻き起こしたカール・マイの小説の映画化を取りあげ、当時の社会・政治的力学をも考慮しながら、その映画史的意義を検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額に誤差が生じた。 使用計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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