2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520354
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
シュペヒト テレーザ 大阪大学, 文学研究科, 講師 (40622519)
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Keywords | ドイツ文学 / 移民文学 / トルコ / クルド人 / アイデンティティー / 風刺 / 笑い |
Research Abstract |
平成25年度の研究は、前年度同様、ドイツ語で執筆出版されたクルド人作家の作品研究にあてられた。複数の作品を研究するにあたっては、(1) 風刺的ないしは批判的な表現のなかにみられるアイデンティティーの揺れと固着化、(2) 表現に介入する文学的ないしは美的な操作、(3) 事実と作品へと組み込まれたフィクションとの間の緊張関係 の3点である。これらはいずれも文学作品の外から介入する権力構造ならびに作家が作品を執筆する際に必ず通る迂回路であると同時に、作品の外から介入する権力と呼ぶことも可能である。作品解釈において重要視する上記の3つの視座は、現在のポスト移民期の移民文学を解釈するうえでの必要不可欠かつ有効な読解格子であることを再確認することができた。なお、(1)に関しては、7月に、トルコ人であり現在ドイツで活躍するカバリストのムッシン・オムルジャ氏を大阪大学に招き、彼に実際にドイツにおけるトルコ人のアイデンティティーを主題とするパフォーマンスをしてもらい、そのパフォーマンスに対してディスカッションをおこなうシンポジウムを開催することができた。また(2)については、主にNihat Behramも作品の解釈を通じて確証した。(3)については、トルコとEU/ヨーロッパ(とりわけドイツ)の対立関係、ならびにトルコ内でのトルコ人とクルド人の対立関係という2重の対立関係を具体的に念頭に置いており、とりわけトルコ内でのトルコ人とクルド人との対立関係については、日常のニュースを含めて、クルド人の政治情報の収集を継続的におこなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツにおけるクルド人作家の作品がはらむ問題について、日本での研究は皆無である。それゆえ平成25年度は、5月の日本独文学会において、ドイツにおけるクルド人作家の作品とその作品がどのような点でアクチュアルな問題を提起するのかについて口頭発表をおこなった。口頭発表では、Gedichte von Nazif Telekの作品である『Sehnsucht nach Freiheit』(1996) 、Feryad Fazil Omarの作品『Leuchten aus der Stimme』(1988)、 Ali Bicerの『Die Falle』(1997) 、Kurdo Husenの『Der Kopf, der alles vergass』( 1996), Celal Yildizの小説『Dersims Stimme. Die Kinder von 1938』(2010)、その他Nihat BehramとHalil Guelbeyazの作品について紹介した。 また7月には、ドイツより、ムッシン・オムルジャ氏を招聘。Nihat Behramの小説の詳細な分析について、ドイツの学術雑誌にて論文として発表することになった(この報告書を書いている時点では印刷中である)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでクルド人作家の文学作品を解釈する研究をすすめてきたが、平成26年度は、クルド人作家の作品を受容の側面、つまりドイツにおけるクルド人作家の作品の受容へと研究をシフトすることになる。そのためには、トルコ(クルド)、ドイツの双方を意見を重ね合わせる作業が必要となる。こうした研究の方向性を受けて、平成26年度には二つの国際シンポジウムを予定している。ひとつは、クルド人作家かつドキュメンタリー映画監督であるHalil Guelbeyazを招聘し、彼のドキュメンタリー映画の上映と、そのドイツにおける受容ならびにクルド人としてのGuelbeyaz氏が直面しているコンフリトなどに関するディスカッションを期待している。もうひとつは平成26年度末に、ドイツから主にトルコをフィールドとするジャーナリストをパネラーを招きEUとクルド人への処遇についての大きなシンポジウムを開催し、ドイツとトルコではない日本という場所において、クルド移民とEU/ドイツのアクチュアルな政治状況について活発な議論をおこなう予定である。
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Research Products
(4 results)