2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520355
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 神戸大学, その他の研究科, 教授 (00219445)
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Keywords | ヴァレリー / エクリチュール / 詩学 |
Research Abstract |
ポール・ヴァレリーの初期詩編を研究するために、昨年度にひきつづき、パリのフランス国立図書館、ならびにブリュッセルのアルベールII世王立図書館を訪れて、資料の収集にあたった。この作業を通して、フランス象徴主義の詩人たちの多様な活動が明らかになるとともに、『旧詩帖』に収録されている詩編の構想段階から雑誌発表段階にいたる詩編の変遷を確実に追い求めることができるようになった。それらの分析の結果、ヴァレリーがこれらの詩編の構想にあたって、19世紀後半においてパリの詩壇でなおも有力であったユゴーやジョゼ・マリア・ド・エレディア、マラルメなどに多くを学んでいることが明らかになった。 また、『旧詩帖』以前の詩編についての研究も進めることができた。セットの中学生時代に書かれた詩編は、現在活字版とファクシミレ版で発行されているが、ここに書かれた詩編の分析を通して、将来大きく展開されていくことになるヴァレリーの詩学の根本部分を確認することができた。そこには大作家の作品の模倣とパロディーを繰り返しつつ、独自の作家へと成長していくヴァレリーの姿を発見することができた。 また、現代フランスの作家エリック・ファーユ氏との対談(2013年11月1日、東京池袋、リブロ)において、ヴァレリー的な詩学が現代フランスの作家たちにどのような影響を与えているのかも確認することができた。それは、安定的な自我の保証のないところで、言語というきわめて粗雑な道具がどのように働きうるのかという問題として提起されていることを再確認する場でもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去二年にわたってパリのフランス国立図書館で資料の収集を行った結果、論文執筆に必要と思われる資料をほぼすべて収集することができたし、それらを整理分類することができた。今年の夏にはそれらをもとにした論文執筆が可能な状態にまでこぎつけていると判断する。 また、必ずしもヴァレリーを専門としているわけではない現代作家のエリック・ファーユとの対談や聴衆との意見交換を通して、ヴァレリーの初期の詩編の書き方の特徴をあきらかにすることができたことも大きな収穫であったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度にあたるので、さらにもう一度のフランス滞在を経て、収集した資料の再確認の作業などをおこなったうえで、論文執筆にあたるとともに、各種学会での研究発表を行う予定である。 研究の中心課題になるのは、これまで象徴主義の美学という系譜の中で一般的に理解されてきたヴァレリーの詩学がどのような過程を経て成立していったのかということを初期詩編の分析を通して明らかにしていくことにあるが、草稿や未公刊資料の分析を通して、そうした理解に修正を加えていきたいと思っている。
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