2014 Fiscal Year Annual Research Report
新約聖書偽名書簡についての文学的研究:擬似パウロ書簡を中心に
Project/Area Number |
24520359
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
辻 学 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (50299046)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 新約聖書 / パウロ書簡 / 擬似パウロ書簡 / 偽名 / 間テクスト性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、新約聖書の1/3以上を占める偽名書簡に注目し、1世紀後半から2世紀前半にかけての初期キリスト教の中でこのような偽名書簡が登場した文学史的背景、新約偽名書簡に特徴的な偽作手法、そしてこのような文書が生み出されてきた歴史的状況を明らかにしようと試みるものであった。最終年度である平成26年度には、前年度に終えられなかった第二テサロニケ書簡に関する分析を行い、この書簡が、パウロの真筆である第一テサロニケ書簡の内容を実質的に上書き修正しようとする意図を有していること、しかし同時に、第一テサロニケ書簡との内容的矛盾ゆえに偽作であることが露呈しないよう工夫されていることを明らかにした。この結果は、日本新約学会第54回学術大会(平成26年9月12-13日、於:広島女学院大学)において口頭発表すると共に、日本聖書学研究所欧文紀要 Annual of Japanese Biblical Institute 40 (March 2015) に英文で投稿、掲載された(査読つき)。 最終年度の課題であった牧会書簡(第一・第二テモテ書簡およびテトス書簡)の偽作手法に関する研究はなお継続中であり、研究期間終了後にドイツ語および日本語による学術的注解書の形で公表するため準備を進めている。研究期間内に実施した分析によれば、牧会書簡3通は、最初からひとつのグループとしてまとめられており、当時すでに形成されつつあった「パウロ書簡集」を補う形で、パウロ書簡の「正しい解釈」を示す目的をもって作られた偽名書簡である。この見解については、本研究の重要な実績である単著『偽名書簡の謎を解く:パウロなき後のキリスト教』(新教出版社、2013年)においても部分的に示しているが、学術的検討をさらに深めて、専門書(注解書)の形で公表する手はずである。
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