2012 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ近代における「宇宙論的神学」の生成について
Project/Area Number |
24520360
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
坂本 貴志 山口大学, 人文学部, 准教授 (10314783)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 宇宙論的神学 / カント / シラー / レッシング / スウェーデンボリ / 神人同形論 / イシス / マリア観音 |
Research Abstract |
今年度はドイツ近代における「宇宙論的神学」の具体的な展開の様相を、カント、シラー、レッシングにおいて探究した。「世界の複数性」を踏まえた、新しい神学的宇宙論の模索は、批判期前のカントの場合、表裏一体をなす二著作『天界の一般自然史ならびに理論』と『視霊者の夢』において顕著であり、「自然即神」を表現する伝統的な観念である「存在の連鎖」の観念が複数化した宇宙世界全体に適用されてある。「視霊者の夢」が見ようとするのは、こうした「存在の連鎖」に重なる「非物質的世界の総体」であるが、これはスウェーデンボリに即してカバラ的な「神人同形論」の観点から捉えられてある。このような「神人同形論」が、ホッブズ的な絶対主義国家に対抗する近代的国家の理想ならびに美的人間の形成の議論として応用される様をシラーにおいて考察した。またレッシングも「存在の連鎖」と「世界の複数性」の両観念を踏まえて、新しい哲学・神学を構想するが、それがスピノザ哲学の基本的な受容に基づいている様を分析した。シラーの「宇宙論的神学」の研究成果については日本独文学会のシンポジウムにて発表し、中世から現代に至る思想史の中で変容しゆく人間論の枠組みに関連して、シラーのカバラ的な「神人同形論」が占める位置を新しく照らし出した。またより広範な形での論展開をドイツ語にて行い、これは著書という形でドイツにて刊行された(inter)。レッシングに関する論考もドイツ語と日本語で発表した。これらの議論と平行する形で、「宇宙論的神学」の、宗教民族学的な観点からの研究を、イシス神の地中海世界における歴史的変容、地母神のインド・アジア世界における歴史的変容、さらにこれら両者の融合(マリア観音)をテーマとして行い、この成果をアジアゲルマニスト会議(北京)において問うて、研究の更なる展開を国内外の研究者から大いに奨励された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に予定していた研究内容は次の三点である。 α ルネサンス期における宇宙論をニコラウス・クザーヌス(『学識ある無知について』1440)、コペルニクス(『天体の回転について』1543)において検討する。これによってコペルニクス的宇宙観から近代的な宇宙観への移行の意義を根本的に明確にする糸口を得る。 β カドワース『宇宙の真の英知的体系』(1678)におけるヘルメス的伝統の分析を行う。 γ カント『天界の一般自然史ならびに理論』(1755)と『形而上学の夢によって解明された視霊者の夢』(1766)をカバラ的な「新人同形説」の観点から検証する。 これらの研究を夏期休暇時には、ヴォルフェンビュッテル・アウグスト公図書館に滞在して行う予定であったが、アジアゲルマニスト会議への出席と準備のために、冬期へとずらさざるを得なかった。しかしながら、βの研究は、ウォーバーク研究所に滞在することにより、二次文献の参照も含めて集中的に行うことができた。γの研究に関しては、平成25年度に研究予定であった、「γレッシングの詩と神学的著作を通してその「宇宙論的神学」を明らかにする。」を先取り的にしつつ、これと連動する形で行うことができた。また平成26年度に研究予定であった内容(αスピノザの汎神論が、近代における「宇宙論的神学」のプロトタイプとなる可能性を検証する。βシラー『ドン・カルロス』(1787)、ホフマン『磁気催眠術師』(1814)における「宇宙論的神学」の様態を明らかにする。)も予定よりも早く行うことができた。αの研究に関しては、当初の計画の半分程度の達成度であるが、25年度以降の研究によって大きく挽回可能な状況である。また、「マリア観音」をテーマとした比較文化的な観点での研究主題の拡がりがあって、これは大きな収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に当初予定していた研究内容は以下の通りである。 α ジョルダーノ・ブルーノ『無限、宇宙および諸世界について』(1584)において「宇宙論的神学」の生成要因を検討する。 β ヒューム『宗教の自然史』(1757)『自然宗教に関する対話』(1779)において、「宇宙論的神学」を支える議論としての、自然宗教ならびに理神論を考察する。 γ レッシングの詩と神学的著作を通してその「宇宙論的神学」を明らかにする。 γ、すなわちドイツ近代における「宇宙論的神学」の展開については大幅に進捗しているので、今後はさらにヘルダーを加えて、展開の更なる拡がりを検討する。主題としてあるのは、「宇宙論的神学」を人間中心主義の立場から構築しようとする際の問題点を、ヘルダーの思想に即してあぶり出すことである。ヘルダーの思想には、「存在の連鎖」の中で、地上における人間の最高位を、宇宙における普遍的な価値として積極的に捉え返していこうとする姿勢が見て取れるが(『イデーン』)、それがヨーロッパ中心主義とキリスト教擁護の立場と連関する可能性を秘めており、この分析が必要である。またα(ルネサンス前後の「宇宙論的神学」)に関しては、スピノザの哲学と関連させて、より包括的な観点での、ルネサンス後の思想状況の検討が必要であり、β(ケンブリッジ・プラトニズムと「宇宙論的神学」)に関しては、カドワース以後の思想状況が、カドワースといかなる関係を持つかをより意識化して考究する必要がある。そして、δとして生成してきたテーマ、すなわち、宗教民族学的、かつ文化史的な観点での、「宇宙論的神学」の具体的様相をも、あわせて検討する必要が生じてきた。イシス、マリア、ミトラ、観音、マリア観音を、幅広く、「宇宙論的神学」の思想を体現する「地母神」の地理的歴史的変奏として捉える可能性が開けており、これをも可能な限り合わせて考究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当無し
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Research Products
(7 results)