2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520366
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
西村 賀子 和歌山県立医科大学, 保健看護学部, 教授 (30180649)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ホメロス / 『オデュッセイア』 / 受容研究 / 明治初期翻訳文化 |
Research Abstract |
今年度は研究の成果を書籍として公刊することができた。『『オデュッセイア』――〈戦争〉を後にした英雄の歌』(岩波書店 2012年)である。成果の具体的内容としては、この本の前半では『オデュッセイア』という叙事詩が古代から現代までどのように受け入れられてきたかを時代別に論じた。とくに現代に関する部分は、これについて研究している研究者が日本にはまだいないという点でユニークな成果を上げることができたと自負する。著作の後半では作品解釈を中心に展開したが、紙幅や構成の都合で触れられなかった問題も多々あるので、今後はそれについてさらに探求していきたい。 成果としてはさらに、日本西洋古典学会での口頭発表および、学会誌への論文掲載があげられる。『オデュッセイア』第22歌における女中たちの処刑をめぐる問題を取り上げ、作品構成との整合性との関連から処刑の問題を論じた。 またこれは、厳密に言うと西洋古典学の研究には属さないのだが、上記の研究を行う過程で生じた疑問について書誌学的な研究を行った。『オデュッセイア』の17世紀フランス版翻案であるフェヌロンの『テレマコスの冒険』という作品の本邦初訳とされる長沢正毅『へねろむ物語』が実際に本邦初訳かどうかをめぐって、国立国会図書館の蔵書を中心としながら明治時代の初期の出版事情を考慮に入れながら検討した。結論としては長沢正毅『へねろむ物語』は出版が企図されたにも関わらずついに出版されなかった書物であり、『テレマコスの冒険』のではなくフェヌロンの『寓話集』の翻訳を目指したものであったという考えに至った。 上記の成果を踏まえながら、今後も一層研究に励みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
著作を完成させることができたのは、これまで何年も研究を続けてきたためで、刊行がたまたまこの年になり、成果達成を科研で報告できるのは望外の喜びです。学会発表も、準備にかけられる時間が限られていたのでとうてい無理だと思っていたが、実によく頑張ったと自分でも思います。でもがんばりすぎて大病をしてしまいました。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としていま考えているのは二つの方向があります。一つは受容研究の充実で、もう一つは科研のテーマにした新たな解釈の模索です。前者については3月に大阪大学で聞いたBrown 大学のBoedeker教授の講演に触発されました。古典期におけるホメロス受容において、私は歴史家が真実と虚構の差異に着目してホメロスを批判しはじめた点を重視していたが、歴史家たちが用いた表現がホメロスの伝統を継承するものだということを講演を通して学びました。差異を見るだけでは不十分であり、今後は共通性あるいは文化的連続性にも注目しなければなりません。もう一つの新しい解釈についてはまだ具体的な論点を見いだせていないが、全体像をあぶり出す箇所や問題点を見つけたいと思います。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
やはり他の研究者から刺激を受けることは重要なので、講演会などを積極的に聞きに行くために旅費に使いたい。同時に、研究書や論文を読むことが研究の根幹であるから、書籍購入や文献取り寄せなどにもお金を使わせていただきたい。
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